最後の私

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祝田(いわいだ)先輩、ダメです! どの回路も反応しません!」  後輩の声に、焦りが滲んでいる。この土壇場になって持ち上がった、大きすぎる問題に対処しきれず、管制室には悲鳴が上がった。ほぼ全ての人類が横たわっているスリープケースをカメラの画面越しに見つめつつ、私も唸った。  施設管理AIの、原因不明のエラー。  ここまで調整に調整を重ね、この歴史的な日のために細心の注意を払って運用してきたAIが、人類が眠りにつこうというまさに今になって、何の操作も受け付けなくなってしまったのだ。 「エラー解析には少なくとも数日を要します」「これが動かないと、施設管理ロボットも動作しません……どうしましょう……」  非常時対応マニュアルをめくるまでもなかった。こういう際の対応は、昔から決まっている。全カプセルに催眠剤を充満させ、施設を本稼働させる、その時間は迫っている。もう変更など誰にもできない。 「私が残って管理する」 「祝田先輩!」  後輩が首を振る。悲しそうな顔だ。きっと、この顔はずっと忘れられないな、と思った。 「それなら私も残ります。残って一緒に原因を探って」 「大丈夫、ひとりで十分。すぐに解決して、私もみんなの後を追うから」 「先輩」  それでも私の腕を引っ張っていこうとする彼女を、他の同僚たちが柔らかく制止してくれた。ここで必要なのは頭数ではないことを、みんな理解している。この施設や、その運用のためのシステムAIを最もよく理解しているのは、それらを設計した私なのだから。 「祝田リーダー、すみません。先に行ってます」 「うん。よい夢を」  後輩を間に挟むようにして、仲間たちが管制室から出ていく。彼女が私を呼ぶ悲痛な声は、ドアが閉まると途絶えた。 「……さて……」  向き直って見つめていると、モニターに仲間たちの姿が映った。どうにかこうにか全員がケースに入り込み、私の次の動きを待っている。時刻表示を確認し、心の中でカウントダウンを行う。本当であれば、ガラスケースの中で行なっていたはずのカウントを。 「冷凍睡眠、開始」  ボタンを押す。使われるとは思っていなかった手動操作用のボタンだが、ちゃんと作動したようだ。ケースの中の人たちのバイタルデータには、見たところ問題はない。全員、安らかな眠りを得た。とりあえずはほっと胸を撫で下ろし、それから私は完全に無人となった管制室を見回した。 「どこから手をつけよう」
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