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パーカーがクソ似合う彼氏だった。
思い出すと腹が立つ。
スラッとしているくせに肩幅がガッチリしていて、丸顔のくせに顎のラインがスッキリしていたせいもある。
でも一番の要因は、ニッコリした笑顔の輪郭が、クシャっとしたフードの曲線に似合っていたからだ。
あいつはそれを知ってか知らずかパーカーをよく着る男だったし、よく笑う男だった。
いや、自覚してたはずだ。
だから私はあいつが笑うときを見逃さない。
そしてそいつのせいで私はパーカーが似合いそうな男をマッチングアプリで選ぶようになったし、パーカーを来てこない男は切った。
でも彼ほどパーカーが似合う奴はいなかった。
パーカーをよく着る彼女だった。
似合ってはいたけど、せっかく品のある顔をしてるんだから、学生のときみたいに綺麗系?の服を着ればいいのにと思っていた。
俺はパーカーしか持っていないから、洗濯機の中はいつもお互いのパーカーで嵩張っていた。外干しするときは必ず彼女と俺のパーカーを並べた。彼女は乾きにくくなる!と言っていたが、並べたかった。
大きいパーカーと小柄なパーカーがベランダで揺れているのを眺めるとデートしているような気分になった。あまりデートした思い出がないけど。
今、隣を歩く女性はパーカーを着ているけど、正直似合っていない。
部屋は2LDKだった。二人暮らしには広い間取りになることはわかっていた。不動産屋も1LDKか2DKを推していたけど、私が2LDKがいいと言った。本当は1LDKが良かった。
多分、結婚を意識したのだと思う。
一緒に居る時間が長すぎると、お互いのエゴが混線してしまうし、時にはすれ違ってしまうから。
適度に自分の時間を設けられるように。
同棲が長く続くように。
結婚まで辿り着けるように。
多分、2LDKは間違っていなかった。
間違ってはいなかったけど、正解でもなかった。
どちらかというと、私たちが正解にできなかった。
休日が被らなかった。
彼女は月木が休みで、俺は土日が休み。
被るときは月木が祝日のときか、俺が有給を取った。平日はお互いが定時であがれればいいが、片方が早いときはもう片方が残業になることが多々あった。
一緒に居られる時間を増やすために同棲を提案したはずなのに。
誤算だったのは、同棲しても暦が変わるわけではないので休みは被らない。
生活空間を被せることができたが、生活時間が重なることはなかった。
私が行きたいところがあるというと、「どこどこ?」とすぐ話を聞いてくれた。休みもすぐ取ってくれた。お昼ご飯のお店も、夕御飯のお店も、すぐ探してくれて、1日のデートプランをあっという間に立ててくれた。
本当に良い男だった。
「オムライスがいい」と返信した。
彼女が休みのときは夕飯のリクエストを聞いてくれる。
ダイニングに座ると可愛いオムライスがほかほかに温められて出てきた。まるく整えられた黄色い卵焼きに、ニッコリ笑った似顔絵がケチャップで描かれていた。おでこにはパセリがのっていた。
こういう一手間をしてくれる彼女が大好きだった。
浮気されたわけじゃない。
倦怠していたわけじゃない。
きっと最初で最後だ。もう見つからないと思うし、探すのもめんどう。
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