余計なお世話

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   雫は9時半頃迎えに来た。拓也は栞のところに預けてきたという。 「助かるよ、朝っぱらから迷惑かける」 「いいって。保険証とか診察券とか持った?」 「あ」  慌てて財布を確認する。そこに診察券は入っていた。 「お金は?」 「おい、そこまで疑うのか?」 「セナはちょっとしたところでドジ踏むからね、心配になるのよ」  雫がくすっと笑った。普段病院と縁が無いのだからいろんなことが気にかかる。 「祐斗じゃあるまいし。……お前が焚きつけてるんじゃないだろうな、祐斗を」 「なによ、それ」 「あいつ、俺のことを管理してると思ってるからさ」  車の中で言い合っている内に病院に着いた。 「ね、肝心なこと。ケガした方、腫れてるんでしょうね? えっと、右腕だった?」 「腫れてるよ。もうたいしたことないって程度に」 「そうそう。なら良かった!」  今回の診察には一人で入った。 「どうですか、他に痛んだり違和感があるところは無いですか?」 「特に無いです」  上半身裸になる。肩甲骨の所を念入りに触られて、ちょっとだけ呻いて見せた。 「まぁ、しばらくは痛いでしょうね。湿布薬出しておきますから。後は何かあったら来てください」 「もう診察は終わりってことですか?」 「心配なことがあったら来てもらえればいいですよ」 「ありがとうございました!」 「はい、お大事に」  顔いっぱいに笑顔が溢れそうなのを我慢する。もう二度と来なくていいのだ。 「どうだった?」 「終わり! もう来なくていいってさ」 「良かったわね! じゃ今夜から家に帰る?」 「そうするよ。治ったんだから徳野さんももう来なくなるだろうし」 「それが何よりね」  夕食の買い物だけ付き合ってもらって、本屋の店先で下りた。 「じゃ、祐斗によろしくね」 「伝えとく。気をつけて帰れよ」  走っていく車を見送り、店に入った。秀太朗はもうレジに立っている。 「ただいま。病院はもう終わりだ。今夜から家に帰るよ」 「そりゃ良かったな! でも何かあったらいつでも頼ってくれよ。セナたちも家族なんだから」  そう言われて嬉しくなる。 「祐斗が帰って来るまでなにか手伝うよ」 「いや、それは」 「なんでも言ってよ。裏方のことでいいから」  前にも手伝ったことがある。届いた本と納品書をチェックして行くのだ。二階に行ってもすることがないだろう。秀太朗が手伝いを頼むと、セナは喜んで事務所の方に回った。  途中で昼食を取り、それぞれの本をビニールの袋に詰めていく。結構こんな仕事が楽しい。普段仕事らしいことを何もしていないのだから余計そうだ。  タツキは中小企業の営業を担当している。外に出たり、自由度が高い。ヴァンパイアの関東支部の活動と並行して動ける。だから仕事というもの、時間の管理の仕方を良く知っていた。そういう点、『売れない作家』という肩書のセナは自由気ままに過ごしている。もっぱらの仕事の中心は、祐斗の育児と家事だ。  普通ならすることが無いと呆けてしまうものだろうが、セナには有り余る好奇心があった。遠出をすることは減ったが、それでも週末には金曜の夜から土曜日にかけて祐斗を連れ回すことが多いし、何かを作ったり、勉強したりと、セナはセナなりに忙しい。 「お父さん、ただいま!」  秀太朗に事務所にいると聞いて、祐斗は真っすぐ奥に向かった。 「お帰り! 病院はもう行かなくて済むぞ」 「ホント!?」 「ああ。湿布だけでいいってさ。夕食の買い物も済んでるし、秀太朗に挨拶したら帰ろう」 「うん!」  祐斗の声が弾んだ。もしなにかあったら、と授業中も気がそぞろで質問には二回答え損なったくらいだ。 「おじちゃん、また来るね」 「いつでもおいで。お父さんを頼むよ」 「うん、任せて!」 「俺の方が親なんだけど」  苦笑しながらタクシーに乗り込む。これで日常生活に戻れるはずだ……った。  
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