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さらに余計な
次の土曜日まで、瀬名親子は普通に過ごすことが出来た。学校は離れているから車で送り、そのまま図書館に向かうことが多い。たまに旅行会社に行って、週末の一泊旅行を予約したり。そして祐斗を迎えに行って二人で夕食の買い物をする。
こんな生活も後少しだと聞いた。学校でクラブ活動というものが始まると、祐斗の下校時間が遅くなるからだ。それにその頃には一人でバス通学が出来るようになっているだろう…… いや、今だってそれは出来るのだが、セナは二人の時間を大切にしたかった。
さて、土曜日。朝から憂鬱な雨だ。祐斗がちょっと鼻声で、セナは”薬”を飲ませようかと迷っていた。
「そんなの飲まない。熱も出てないんだから」
と祐斗は拒否している。
玄関のチャイムが鳴った。
「はい」
セナは何も考えずにドアを開けてしまった。
「瀬名さん! 良かった、もう完治されたんですね!」
「と、徳野さん」
「今週は忙しくて一度も顔を出さずに申し訳ありませんでした」
そういう徳野氏の後ろには奥さんが控えている。リビングにいた祐斗はとっさに玄関の父に怒鳴った。
「お父さん、支度出来てる? 僕、もういつでも行けるよ!」
「あ、ああ、ちょっと待って」
祐斗は機転の利く子だ。セナにはその意図が伝わった。
「申し訳ありません、もう出かけなくちゃならなくて」
「お出かけですか! いや、タイミングが悪かったようで申し訳ない。明日はいかがですか?」
祐斗が玄関に来た。
「旅行に行くんです、お父さんと」
「それはそれは! どちらに?」
(吸い尽くしたろか)
物騒なことを考えながらセナは最近に無かった反発を覚えた。
「どこでもいいじゃないですか。なんの用なんです?」
「玄関先じゃなんですから」
いう言葉が違うだろう! とセナもケンカ腰になりつつある。
「もうケガも治ったんだし、お世話になることは無いと思いますが」
そこに奥さんが割り込んできた。
「いいお話を持ってきたんですよ! 今度ゆっくりご説明しますけど、瀬名さん、お見合いをしてみませんか?」
「は? 『おみあい』? おみあいって?」
「結婚を前提に出会いの場を設けるということです。私顔が広いんですよ。ねぇ、こんな小さいお子さんがいてお父さんと二人暮らしだなんて……もう気の毒で気の毒で。今日はお写真だけ置いて帰りますので、ご覧になってください。きっと気に入っていただけるはずですから。あ、電話番号を教えてくださいな。今度から都合をお聞きして伺います」
セナの手より、祐斗の手が早かった。写真を掴むと徳野に突き返す。
「要らない、こんなもの! もう来ないでよっ、お父さんは結婚なんかしないよっ」
「子どもには分からないでしょうけどお父さんだって寂し」
「帰ってください。俺たちの生活に二度と関わらないでください。電話番号を教える気もありません」
奥さんは言い返そうと息を大きく吸ったが、徳野さんがそれを止めた。
「済みません。お出かけのところだったのに。まだお付き合いして間もないですからね。また日を改めます。どうも失礼しました」
丁寧に頭を下げるのを祐斗が蹴り飛ばしそうになった。その体をセナが捉まえる。
「お帰り下さい。さっき息子が言った通り、俺は結婚なんか興味ありません。これきりにしてください」
それでも徳野は「今日はこれで」と言葉を残して帰って行った。
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