やる気

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やる気

   セナはやる気をなくし、呆けていた。それほどに真実は衝撃的過ぎた。  シバは祖父だった。その血筋にマデリーノとサイファとセナを残した。マデリーノを殺したのは、実母のアンジェリッタだ。そのアンジェリッタが今度は血統を守るために自分を追い詰めようとしている。 「いい加減にせんか、ガキみたいに不貞腐れるのは」 「不貞腐れてるんじゃない」 「見ろ、祐斗だって一生懸命働いておるぞ」  祐斗が今やっているのは、壊れた壁のレンガを直す作業だ。セメントを練り、レンガをつけて穴を塞いでいく。父の気持ちを思うからこそ、何も言わずに黙々と働いていた。 「あの子はいい子じゃの。人間にしておくのが惜しいくらいじゃわい」  シバがセナに向けた目は厳しかった。 「それなのに父親はこの様で役立たずじゃ。お前だけ南にでも出て行ってしまえ!」  何一つ言い返せない。祐斗と目が合った。その目は心配そうに『大丈夫?』と聞いていた。  セナは立ち上がった。 「(かまど)を直す。寒いからいけないんだ、ここは」  その言い訳にシバはくすっと笑った。なんにしてもいいことだ、やる気になったのは。  シバは物はふんだんに揃えていた。買い込む材料は最小限にして、セメントを大量に仕入れ、レンガは自分で焼いて作ってあった。  村落は徐々に衰退させ、村人はいつの間にか出て行き、今ではシバ一人で住んでいる。  その昔、サイファがここで女性と過ごしたのは本当の話だ。買い物の帰り、屋根から落ちてきた看板が彼女を直撃した。病院に運び込まれた時にはもう意識は無かった。サイファとシバが駆け付けた時には医師から『ご臨終です』と声をかけられて座り込み大声で泣いた……よりによってそんな怪我で命を失うとは……せめてそばにいれば……  シバは息子の悲しみを何か月も受け留めてやった。結婚は無理でも、二人の仲睦まじさをずっと見守ってきたのだ。  ある晩、シバは静かに息子に声をかけた。 「サイファ、これでいいのか? この後の途方もない時間をこうやって無為に過ごしていくのか?」 「父さん…… 俺には今どうしたらいいのか分からないんだ」 「研究に戻れ。やれることはいくらでもあるだろう。お前にしかできないことも。もう立ち上がるんだ、座り込んでちゃいけない」  父に見送られ、サイファは中国に立った。確かに研究中の分野がある。テレノール菌のワクチンを創り上げ、そして今度は弛緩剤の対抗悪。セナと時間を共にしたことで、サイファは元気を取り戻して行った。  
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