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一人取り残され、祐斗は座り込んだ。もう外はマイナス8度。生を失ったウサギが徐々に凍り付いていく。
「祐斗ぉーっ、祐斗ぉーっ」
その声を聞いて祐斗は立ち上がり走り出した。
「父さん、父さんっ」
二人はしっかりと抱き合った。涙が祐斗の頬に凍り付いている。その頬をガシガシとセナは擦ってやった。
「バカだな、皮膚だって凍死しちまうんだぞ」
「でも、でもウサギが」
「後は食ってやらなくちゃな。俺たちがそいつにしてやれるのはそんなことくらいだ」
祐斗はわぁわぁと泣いた。
「ものの生き死にを手にするということはそういうことなんだよ。生きる、死ぬ。命が淘汰されていく。弱い者がより強いものに。逆に考えれば強い者が強いのは弱い者がいるお陰なんだ」
「ヴァンパイアの血統みたいなもの?」
「……まぁな。結局生き物ってのは似たようなもんだ。命があるから生きていく。生きるために命を糧にする。野菜だって、もしかしたら収穫されるときにぎゃぁぎゃぁ叫んでるかもしれない」
祐斗は小さく笑った。そうなのだ、今までさんざん食べてきた。それは誰かの手を経てきたからだ。今はその過程に自分がいる、命を奪う者として。
「このウサギ」
「どうしたい?」
「これだけはお墓を作っていい?」
「いいよ」
「もう無駄にしないって誓うよ」
「ん」
「僕は僕らの命のために命を奪うんだ。そうやって生きていく」
雪に穴を掘る。セナは手伝わなかった。このウサギの命の責任を負うのは祐斗なのだ。
雪深く葬って、祐斗は立ち上がった。
「帰る。ありがとう、父さん。寒いでしょう?」
「俺? わ、寒いっ!」
祐斗はダウンを脱いだ。
「これ、羽織って」
「お前は?」
「僕、若いから」
「言ったな、こいつ!」
家に向かって走った。自分のために上着も着ずに飛び出してきた父が有難かった。
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