やる気

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   家に入るとそれだけで体が痺れた。 「寒かったろう! こっち来いよ」  アキラが自分の隣を開けたが、祐斗はシバの横に立った。 「なんじゃ」 「ナイフ……研ぎ方教えて」 「なんのために?」 「苦しめずに殺したいから」  シバの顔にゆっくりと笑顔が広がる。 「あそこの砥石を持ってこい」  祐斗は砥石を持って座ると、何度も何度も練習を重ねた。 「それじゃ切り口はギザギザじゃ。ほら」  自分の手を切って見せる。すぐ治ってしまうからしばらく傷を開いたままみせた。  祐斗が変な顔をする。 「どうした?」 「今まで考えたこと無かったけど、傷を開いている間って痛いの?」 「痛いさ。人間と同じで痛覚はあるんじゃから」  父を見る。 「父さん、ケガ、何度も見せてくれたよね。あれ、ずっと痛かった?」 「痛かったよ。けど仕方ないさ、必要なことだったんだから」 「……ごめんなさい。僕のせいで無理なことさせてたんだね」 「終わったことさ、気にするなよ」  祐斗は研いだナイフで自分の手を切った。苦痛で顔が歪む。 「なにするんじゃ!」  慌ててシバは自分の血を祐斗の手に垂らした。 「だってどうせ治してくれるでしょう? なら自分の痛みで覚えるよ」  タツキが頷いた。 「確かにそれが一番いい覚え方だ。でも誰もいないところでやるなよ」 「うん」  それから2,3度切れ味を試したところでセナがやめさせた。自分が怪我するのと息子が怪我をするのとではまるで感覚が違う。 「もう今日は疲れてるだろ? 寝なさい」 「でももうちょっと」 「寝るんだ」 「……はい」  ぐっすり眠った頃、セナは祐斗の手を撫でた。もちろんそこには小さな傷一つ残っちゃいない。 「俺が……拾わなきゃ良かったのかな……こいつに余計な苦労ばかりさせて」 「で、施設に入ってヴァンパイアの餌食にでもさせるか? 良かったんだよ、これで」  タツキは何度も見て来た、飢餓状態のヴァンパイアの前で怯えて声も出ず死んでいった子どもたちを。 「まともな家で育てない子どもはたくさんいる。祐斗は上等な方だよ」  アキラも呟くように言った。 「俺は16の時に捕まって実験体にされてた。どれくらいの傷で治癒するのか。病原菌をそのまま注射されたりね。やつらは治ることには注目するけどその間どれくらい苦しいのかなんて興味は無いんだ。放っときゃ治る、そう思ってるから治療なんてしてくれない。タツキが助けてくれなきゃ、あれが一生続いてたんだ」  終わらないのだ、死ねないのだから。  しんみりした空気を取り払うようにシバが大声を出した。 「さ、今日は寝とけ。明日は朝から雪かきじゃ。叩き起こすまではゆっくりしておけ」  
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