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さて、アルフレッド
統率力を持ち、凡庸ではない力を持ち、圧倒的なオーラを持った父を持つとその息子はどうなるか。
アルフレッドは愚鈍ではなかった。自分の置かれた立場をよく承知していた。
そのような父の後に一族の統主になったのだ、能力が無いわけがない。ただ、霞む。なにをしようとしまいと、結局は比べられてしまうのだ。
かといって、それに甘んじて怠惰な一生を送るほど気概が無いわけでもなかった。アルフレッドに言わせれば、生まれる順番が違ったのだ。自分が生まれて、次にシバが生まれるべきだった。結論はそういうことだ。
ならセナが苦労しただろうか。息子を思うと、それはそれで苦労をするような男ではないと考える。
わずか350歳、人間で言えば約18歳にして「世界を見てきたい」と願い出て、アルフレッドの許可を得た翌日にはすでに国を出て行った、思い切りのいいセナ。後継者としての順位、タイミングが悪かった、そうとしか言いようがない。
統首としての務めは充分果たしたと思っている。子どももぞろぞろ生まれた。正直アンジェリッタとの結婚は頭を悩ませた。しかし彼女には他にはない能力があり、そこに魅力に感じた。そしてそれを受け継いだセナが生まれた。おまけのように、シバがマデリーノまで養子として譲ってくれた。どちらが統首となるかはきっと二人の問題になるだろうと思っていた。そこに関与する気はさらさらなかったからだ。
だが、マデリーノの事故の知らせが来た。自分でさえピンと来たのだ、父がなにも感じないはずがない。これが一般の家族なら、養母が養子を殺害したと糾弾されていただろう。だが事態は難しかった。統主後継者であるセナがもう一人の統首後継者マデリーノを、母を使って亡き者にした、世間はそうまことしやかに語るに違いない。
セナが怒りに任せて、直接マデリーノを殺した村人を吸い尽くしたことが幸いした。事件は明るみに出ることなく、ごく一部の関係者を除いて闇に葬られた。
そして父のシバは真実を追求することなく国から消えた。
だがアンジェリッタの誤算がここにあった。まさかアルフレッドまで真実に気づいているとは思わなかったのだ。アンジェリッタの知っているアルフレッドは、寛容で父親には劣る男……つまり、ちょっとぼんやりした男だった。
「アンジェリッタをどうする?」
国を出る前のシバに聞かれてアルフレッドは即答した。
「あのままに。統主後継者が実子のセナである以上、これ以上のなにもせぬでしょうから」
「次に騒ぎ出すならセナの後継者問題だな。さて、セナがいつまで逃げきれるものか」
シバはマデリーノをこの争いに巻き込まずに済んだことをある意味ほっとしていた。きっともっと血生臭いことになっていただろう。
「マデリーノには可哀そうなことをした……」
アルフレッドはなにも手を打たなかったことを悔いた。アンジェリッタを嫁にしたのは、やはり強い能力を持っていたからに過ぎなかったのだから。
「こんな血統に生まれたんだ、どう生きても辛かっただろう。ましてあの子は優しすぎた」
シバはサイファが純血種でないことにほっとしていた。
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