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「なにをしていたのか聞いている」
これは彼女が知っているアルフレッドではなかった。怒りに深紅を超した漆黒の闇に染まった目が自分に嘘を許さない。
「セナの……いどころを、探そうとして」
「なぜだ」
「後継者を創らないと」
「その問題は私に一任しろと言ったはずだが?」
「サイファはなにか他にも隠しています。それを引きずり出そうと」
そんなことまで言うつもりはなかった。だがアルフレッドの催眠効果は強かった。今までの悪行と知っていることを洗いざらい白状する。夫のこんな一面を見たことが無かった。
「やはりマデリーノを殺したのはお前か」
「そうしなければセナが」
アルフレッドは自分の親衛隊長にアンジェリッタを拘束させた。
あれから相当の時間が経っている。マデリーノの問題と彼女の投獄の問題を結び付ける者はごくわずかだろう。
北側の棟の一番奥、窓のない部屋にアンジェリッタを幽閉する。食事は一日一度。耳の不自由な人間にその世話をさせた。だがそれも誰かが嗅ぎつけ、いつの間にか周知の事実になっていく……
「サイファ、大丈夫か?」
「あに、うえ?」
アルフレッドのベッドに横たわったサイファは、手厚い介護を受けていた。他の場所ではない、脳への攻撃がどうサイファに影響を与えているかが分からない。
「無理をするな。しばらくはここでゆっくりするといい。済まなかった、ちょっとした隙をつかれてしまった。お前はお前のしたいようにすればいい。全てお前に任せるよ」
「ありが、とう」
可愛い弟だと思っている。他に見せない甘えをアルフレッドには見せて来る。それはやはり兄弟だからだろう。
付添いの者にくれぐれも無理をさせぬよう言い置いて、アルフレッドは部屋を出た。これから研究所に赴いて、その進捗を確認するつもりだ。
サイファはまるで海に溺れているようだった。呼吸が何度か止まりかけ、その度に必死に崖にしがみついては息を繋いでいた。
危ないかもしれないという知らせを受けてアルフレッドは部屋に駆け戻った。
「サイファ! サイファ!」
「あに、……ちちう…… セナ…… 梨紗……」
いろんな名前が浮かぶ。その顔が揺れては伸ばす手の先で掻き消えた。脳に直接ダメージを与えられたのだ、その反動が大きい。
必死の看病を受け、ようやくサイファは目を開いた。その頭をアルフレッドがそっと撫でる。
「サイファ、分かるか?」
「あ、にうえ」
「良かった! まだ動くんじゃないぞ。西の林で狩りをしていた男を捕まえてきている。一人きりで暮らしている男だ、安心して飲めるぞ」
サイファは催眠効果で大人しくなっている男の腕に嚙みついた。弱った体が新鮮な血を求めていた。
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