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帰宅
朝比奈家では、なぜかある一軒の家の管理を担ってた。その理由も誰も不思議に感じない。管理と言っても月に一度くらい行って、変わりが無いか見てくるくらいだ。そして、たまに掃除をする。その家は近隣から離れているから、ほとんど目立ちもしない。
それがある日、突然ほぼ全員が「セナ!」と一言発して立ち上がった。そうだ、あの家はセナの家だ。
秀太朗、雫、栞が家に向かった。窓が開き、カーテンがはためいている。
雫は中に飛び込んだ。
「セナ! 祐斗!」
振り返ったセナはほとんど変わりなく、祐斗は精悍な男子と化していた。
「真っ黒!」
「凄い筋肉!」
雫と栞が撫でまわすのをくすぐったそうに逃げ回る。
みんなこの三年間近くの空白のことはほとんど覚えている。サイファがそう暗示してくれたからだ。アキラもほぼ変わらず、タツキの様子がちょっと柔らかくなった。
「帰宅パーティーね! 肉じゃがの用意してきたから」
その言葉に飛びついたのが、シバ以外。
シバとは初めて会った。
「知り合いの爺ぃじゃよ」
説明が面倒で、シバはその一言で片づけた。セナが一言付け加える。
「変わりもんだから気にすんなよ」
シバはじろりと睨んだが、何も言わなかった。
朝比奈家の基準は、祐斗だ。祐斗が慕っていればそれはいい人。でなければ悪い人だ。どう見てもシバは祐斗に絶対的な信頼を置かれているようだったから、それだけで安心した。
「サイファは?」
「多分そのうち来るとは思うけどな。あいつも忙しいから」
サイファはちゃんと回復して、しかも脳への”マッサージ”が良い方に効いたのか、張りつめるほどに研究に没頭していた。日本に来るのは相当遅れそうだが、それは仕方ない。それほどに重要な案件にとりかかっていた。
ところで、雫はシバの心も掴んだ。
「なんじゃ、これは!」
シバほどの年齢を経れば肉じゃがなど過去に幾らでも食べことがあるのに、雫の作ったものには特別なものを感じたらしい。セナの最後のお代わりをかっさらって、シバが全部食べてしまった。
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