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今の祐斗の立場は非常に曖昧だ。
普通の人間に拾われた子どもなら良かった。
だがあいにくセナはヴァンパイアで、一族の統主継承者だった。本来なら次期継承者を作るべきところを、人間の祐斗を育てているから、といういい加減な理由で大事な務めを拒んでいる。これは一族にとって由々しき問題なのだ。
アンジェリッタは捕まったが、一族には他にもこれを大きく問題視しているものが多い。
セナ、サイファに命を救われたタツキ、アキラは大きな恩を感じている。祐斗を大事に思っているが、守ることによって義理を果たしているのだ。サイファは、血縁関係からなのか幼馴染だからなのか。祖父のシバは単なる気まぐれからかもしれない。
つまり、純粋に祐斗を絶対的に守り抜く思いに駆られているのは、父のセナだけなのだ。
だから護身術を身に着けることにセナは賛成した。相手がヴァンパイアでは護身もへったくれも無さそうなものだが、セナがかけつけるまでの時間稼ぎにはなるかもしれない。それに生物学を学んだことで、ヴァンパイアの弱い部分も知ることが出来た。例の脇の下、そして背中の肩甲骨の真ん中だ。致命傷ではない。ただ、動きを遅くすることはできる。
統主継承者は年が幾つになろうとも、品は無いが種を女性に植え付けることが出来る。だからセナがその気になるのを待てばいいとも言えるが、実は相手の女性はそうはいかない。700歳、つまり人間で言えば35歳を過ぎた辺りから受精率が下がる。さらに言うなら純血種を生む確率が減る。
だから適齢期の女性を娘に持つ親は慌てているのだ。早くセナにその気になってもらわないと継承者の権利を得ることが出来なくなる。今のセナは、旬なのだ。頑張ってもらわねばならない時期なのだ。
となると邪魔は一つ。祐斗だ。だからセナは祐斗を隠し、身を護る術を教えている。祐斗を人質に取られれば、寝たくもない女とベッドを共にしなくてはならなくなる。
花嫁候補になるだろう女性群。全員寝たとして、一人も純血種を生まれなければまた最初からやり直しだ。
マデリーノが死んだ時に、セナが生き残って良かったと喜んでいた一族を見てセナは思い知った。誰でもいいのだ、継承者など。強さにどんな意味があるというのだろう。
『死ぬ』という儚さは、マデリーノのように誰にも惜しまれること無く記憶の彼方へ追いやられてしまうということだ。祐斗もそうだ、自分以外に誰が命懸けで守るのだ。
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