帰宅

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   サイファが戻ると聞いてセナは喜んだ。  今、セナの家はせせこましくなっている。セナの寝室は祐斗と共同だ。その方が夜中の祐斗を守りやすいし。そして祐斗の寝室をシバへ。タツキは最初にサイファに用意された部屋、アキラが地下だ。  セナはベッドを取り寄せた。それをリビングに置く。 「なんじゃ、一番広くて開放的な部屋はサイファが使うのか?」 「サイファはずっとこの部屋にいたんだよ。慣れたところが一番いいと思って」  セナが喜んでいるのを感じているみんなは分かっているから、ちょっと笑い加減だ。 「お父さん、サイファのこと大好きだもんね!」 「そういうことじゃない!」 「肉じゃがもサイファには大きいジャガイモ入れてあげるんだから」 「こら!」  狭い家の中で追いかけっこが始まる。みんな非常に迷惑な顔だ。 「祐斗! コーヒー淹れてくれ!」 「はぁい」  タツキがやっと収拾をつけてベッドの設置を手伝った。 「サイファのためじゃないからな!」 「分かった、分かった」  三年ぶりに会う"伯父さん兼幼馴染”がセナにとっては大事な親友なのだ。  サイファが帰って来たんだ、という遠回しなセナの電話で、雫はまた肉じゃがを作りに行った。 「しょうがないわねぇ、まったく!」  と、満更でもなさそうな顔をしている雫。ここの男どもは、みな肉じゃがの虜なのだから。 「今日は余分に鍋を持ってきたわ。たっぷり作ったげるから安心して食べなさい」 「雫はいい女じゃ」 「ありがとう、おじいちゃん」  最初に「ヴァンパイアの爺ぃだ」と聞いてから、雫の中では”おじいちゃん”が定着してしまっている。正直それが気に食わないが、肉じゃがに篭絡されて大人しくしているシバも可愛いものだ。それがサイファにはウケている。なにしろ伝説のヴァンパイアたる父がただのおじいちゃんなのだから。 「俺ももここでは『おじいちゃん』でいいですよね?」  苦虫を潰したような顔でシバは頷いた。まさかサイファに『父上』と呼ばせるわけにもいかない。 「なんだ、四日しかいないのか」  セナの落胆した声だ。 「仕方ないさ、研究ももう集大成だからな。各支部に完成品を届けて歩いてる。日本にばかり長くいるわけにもいかないんだ」  肉じゃがの大きな塊を頬張りながら、サイファが説明した。雫お手製の肉じゃがの鍋は今日は3つある。 「ちゃんと洗って帰してね」  と、意気揚々と雫は帰って行った。 「そうか……」 「それとな」 「なんだ?」 「母上が大荒れだ。ここにも子飼いを送り込んで来るかもしれんぞ。だから急で申し訳ないが、また小屋に身を隠して欲しい」  アンジェリッタが幽閉されていることをセナは知らない。 「子飼いったって俺を殺すわけじゃないだろう?」 「狙いは祐斗だ。お前に言うことを聞かせるために」  セナの目が光る。 「祐斗だと?」 「そのためなら毎晩せっせとお前も励むだろ? それが狙いだ」 「くそっ、まだそんな寝ぼけたことを。父上と母上だっているじゃないか」 「しょうがない、この三年間、アルフレッド様はあまりその気にならなかった。後はお前に任せると言ってな」  父だって現役なのに、セナとしては納得がいかない。 「じゃなきゃ、シバに子どもを作ってもらって」  サイファは吹き出してしまった。 「悪い、それ、直に父上に言ってくれよ」  サイファは真面目な顔に戻った。 「誰の、じゃないんだ。必要なのはお前の後継者なんだよ、セナ」  
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