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四日目はバタバタとした一日となった。サイファが国に帰る。シバにはちょっと用が出来たらしく、みんなとは離れて行動するらしい。そして残りの4人、セナ、祐斗、タツキ、アキラで小屋に戻るのだ。朝比奈家にはまた記憶を消しに行く。
「しぃちゃん」
今回のことは前もって朝比奈家のみんなに事情を伝えた。
「なぁに?」
「僕に肉じゃがの作り方を教えて」
「無事に帰ってきたらまた作ってあげるから」
「お願い。僕が本当に帰ってこられるかどうか分からないんだ」
雫の唇が震えた。こんな子どもを巻き込むような争いに広がるなら、あの時祐斗を朝比奈で引き取るべきだったと。
「ごめんね…… みんな私たちが悪いの。あんたをセナに任せてしまった……」
「ううん、僕は父さんが大好きだよ。だからこれで良かったんだ。ね、肉じゃがの作り方、お願い」
祐斗の真剣な顔つきに、雫もなにか感じるものがあったのかもしれない。雫は丁寧に祐斗に作り方を教えた。
「後はね、自分の勘を信じて作りなさい。料理なんて、毎回毎回同じ味になんてならないの。それを補うのが勘よ」
雫は祐斗を抱きしめた。
「無事に帰ってこれますように。大丈夫よ、きっと何も起きないわ」
「しぃちゃん、僕……しぃちゃんをお母さんみたいに好きだよ」
これが本当の別れになるとは二人とも思ってもいなかった。また会う日を信じて、二人は別れを告げた。
「俺の血?」
「一応保管しておきたいんだ。充分テレノール菌の血清はできたけどね、これから先、何があるかわからないだろ?」
「そりゃ構わないけど……なんで祐斗の血まで?」
どうもサイファの意図が分からない。けれど自分たち相手に何かをするとも思えない。
「活きのいい人間の血が欲しいんだよ。新しい研究を始めるんだ。協力的に血を分けてくれる人間なんているわけないだろ?」
「朝比奈の人とか、どっかで襲うとか」
「女性は子どもを産んでいるし、秀太朗はもう年だからね。無作為に誰かを襲って何かトラブルが起きるのも困るし。頼むよ、祐斗が一番適任なんだ」
セナの採血は上手くいったが、祐斗はそうはいかなかった。必要な量が多過ぎたのだ。
青い顔の祐斗をベッドで休ませる。考えてみたら貧血の人間の手当てをしたことが無い。
「まったく! どこがたいしたことないんだよ! こんなに採るなんて言ってなかったろ!」
「祐斗、ごめん」
「父さん、僕はもう大丈夫だから」
祐斗が謝るサイファを庇い始める。シバも一緒に頭を下げた。
「研究のためじゃ、許してやれ」
「二言目には研究、研究って、今度は何の研究なんだよ!」
「結果が出たら教えるよ」
手を合わせるサイファはやっと許されて国に帰った。この研究は、セナと祐斗の運命を大きく変えていく。
―第2部 完―
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