余計なお世話

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   徳野夫妻から逃げるように、セナと祐斗は朝比奈家に避難した。雫は夕飯の支度だけして自宅に帰ることになった。夫と息子が待っている。 「今日は悪かったな、俺たちの都合で」 「いいのよ。セナと祐斗の緊急事態だもん、私たちが動かなくっちゃね」  秀太朗も頷いてくれた。 「雫の部屋があるし、今日はそっちでのんびりしてくれ。あ、セナは寝ないんだったね」 「本、買いたいんだけど」 「なんの本?」 「医学書。ある程度の知識はつけておかないといざって時に慌てるからさ」  本当に今回のことで懲りたのだ。雫を見送りがてら、三人で一階に下りる。 「じゃ、また明日。病院は午前中に行こうね」 「ごめん、行く必要もないのに。助かるよ」 「いいの、暇だし面白いし。おやすみなさい」  雫に会っちゃ敵わないとセナは苦笑した。 「おやすみ」 「おやすみなさい!」  祐斗も今日は雫に感謝の日だ。  店に入る。 「祐斗もなにか本選んでおいで。私からプレゼントだよ」 「ありがとう!」  祐斗は児童図書のコーナーに走って行った。 「本屋に置いてある医学書なんてたいしたものはないけど」  秀太朗が心配する。 「最初は初歩的なことから見ていく。家に帰ればネットもあるし、ある程度の勉強はできると思うんだ。そしたら専門書を頼むよ」 「そっちは任せてくれ」  セナの知識欲は限りが無い。普通の人間の二倍は時間があるのだから、今からでも医者だって目指せるだろう。目立つことを考えなければきっと無限の可能性があるに違いない。  セナは本を選ぶと自分の分だけ清算した。祐斗の分は甘えさせてもらう。秀太朗はそんな遠慮の無さが嬉しい。  二階に上がってそれぞれの部屋に分かれた。 「今日は学校に行きたくない」  翌朝、祐斗は心配でごねている。病院についていきたい。また不測の事態が起きるかもしれない。 「もう何も起きないよ。雫が一緒だし大丈夫だから学校に行っておいて」 「もうレントゲンとか撮らないかな」 「骨が折れたわけじゃないし。一度撮ったんだからもう撮らないよ」 「心配なこと、本当に無い?」  秀太朗はにやにや笑っている。これじゃどっちが親だか分からない。 「祐斗、お父さんのことは雫に任せておきなさい。学校が終わったらここに帰っておいで」  セナが秀太朗を振り返った。 「その方がいいよ。あの様子だと徳野さん、今日も来かねないだろう?」 「でも」 「二、三日はここにいるといいよ。腫れが引く頃になったら帰ればいい」 「ありがとう! お父さん、そうさせてもらおうよ! 僕、もうあの人たちに会いたくない!」  祐斗は表まで出てきた父を心配そうに振り返りながら学校に行った。 「いい親子になったね」  秀太朗が感慨深げに言う。 「そう思う?」 「思うよ。一つ心配があるんだけどいいかな?」 「なに?」 「まだ間に合うけど……その、見た目をちょっと変えた方がいいと思う」 「見た目?」 「髪型もずっと同じだし。祐斗の年相応にセナも年を取らないと。年齢的なバランスっていうものが」  セナはそんなことを考えてもいなかった。言われて見れば外見は祐斗を拾った頃のままだ。 「早く言ってよ! これでどうだろう?」  慌てて髪を少し短くし、皮膚をそれなりに老化させる。 「いや、急にそうやって老けても」  秀太朗は目の前で変化したセナの顔を見て笑った。あっという間に30代半ばの顔だ。 「祐斗が小さいから今からでも間に合うから。いきなりそれじゃ祐斗だって驚くよ。一か月単位くらいで徐々に年取ったらどうだ? それこそネットで同じ年代の顔を見ながら」 「それで大丈夫かな」 「大丈夫大丈夫。あ、メンズの本を持っていって研究するといいよ」 「ありがとう! 言ってくれてよかった!」  まだまだ人間界のことを知る必要があるとセナは痛感した。  
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