悪魔のたまごは夜明けを知る。

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 *** 「受験番号1082番!エリオット・アッシャーは前へ!」 「は、はい!」  緊張で声がひっくり返ってしまった。名前を呼ばれて、僕はいよいよ下界のゲートがある部屋へ入る。  そこでは、一人前の悪魔であり、今回の試験管である人物が立っている。青い髪が美しい青年は、試験管のモーリスだ、と握手を求めてきた。 「エリオット。君は特に魔法試験で優秀な成績を収めているようだね。十二歳とは思えないほど高い魔力の持ち主だとか。しかも、私と同じエリチェ地方の出身だと聞いている。私も鼻が高いよ」 「あ、ありがとうございます!」 「しかし、試験はそんな私情は抜きに公平に行わせてもらう。心してかかるように」 「は、はい!」  モーリスの手は細いようでいて、非常にごつごつとしていた。剣を握る人間の手だ。見れば彼は腰に短剣が差さっている。悪魔にも、剣が得意な者、魔法が得意な者と様々いるものだ。彼はきっと前者ということなのだろう。  彼が白い部屋に設置された端末を操作すると、ぶうん、と音を立てて魔法陣が起動した。これが、人間の世界に通じるゲートである。人間たちの文明も進化したようだが、現在は悪魔の持つ科学技術・魔法技術の方がはるかに優れていると聞く。 「今回の任務の土地は雪国だ。かなり寒いので、心してかかるように」  モーリスは、手元に大きな段ボール箱を持っていた。どうやら、今回のミッションで使うということらしい。 「この段ボールの中に、大量の荷物が入っている。この荷物を、私が指定した場所に運ぶこと。そして、ターゲットとなる建物の住人にけして見つからないようにすること。それが今回のミッションだ」 「イエス、サー!全力を尽くします」  あの荷物の中身は何だろう。人間たちに運ぶのだから、爆弾か何かだろうか。僕はそんなことを思ったのだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加