悪魔のたまごは夜明けを知る。

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悪魔のたまごは夜明けを知る。

「良いか、お前たち!」  玉座の間にて、声を張り上げるのは筋骨隆々の魔王様。金色の髪に赤い瞳が美しい美丈夫である。  その一言一言をけっして聞き逃さないよう、僕達“悪魔のたまご”は耳をそばだてる。僕達は魔王様の部下にして、いつの日か立派な悪魔になるべく日々研鑽を積んできたメンバーだ。特に今日は、実技試験が始まる大切な日である。 「此処にいる四十五名は、一人前の悪魔になるための第四次試験までを突破した、選りすぐりの“悪魔のたまご”たちである!本日から最終試験を始める。知っての通り、今回からは地上に降りての実技試験となる。実際の悪魔の仕事を手伝って貰うことになるので、心してかかるように!」 「イエス、サー!」  いよいよだ、と僕、エリオットも背筋を伸ばした。  自分達悪魔の最終目標は世界征服。人間たちと戦い、悪魔の本来の故郷を取り戻すことだと聞いている。遥か昔、悪魔は人間たちとの戦争に破れ、不毛の土地である魔界へと追いやられてしまったのだ。長い長い時を経て、魔族は復活の時を遂げようとしている。二度目の全面戦争は近い。そのために、魔王様は自分達悪魔のたまごを今日まで懸命に育ててきたのだそうだ。  自分達の背には、魔族の未来がかかっている。なんとしてでもこの試験を突破し、一人前の悪魔にならなければ。  第一次試験は筆記試験。第二次試験は魔法、第三次試験は格闘。第四次試験は、チームに分かれての総合的な戦闘力のテストだった。いよいよ最終試験。地上での任務の手伝いを成功させることができれば、僕も晴れてたまごの身分を卒業できる。 「実務試験って、どんなものだろうな」  隣の仲間が、ぼそっと呟いた。 「人間を騙したり殺したりするのかな。悪魔らしくてかっこいいよな!」 「しっ!雑談してると怒られるよ」  僕は彼に注意する。とはいえ、気持ちは僕も同じだ。  ここまで試験を突破してきた僕達でさえ、実際に悪魔たちが地上で何をしているのかは全く知らなかったのだから。
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