anthology

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10センチメンタル  あるバーのカウンターで。 「なぁ、人生って何だと思う? 考えてみろよ」 「やめろよ、そんな話」 「俺の人生なんだったんだろう・・」 「やめろよ。まだ40手前だろ」 「夢見るのにももう遅いし、このまま人生終わっていくのかな・・」 「奥さんも子供もいるし、いい人生じゃないか」 「俺だって、そう思ってるよ。けどさ、・・けど、何て言ったらいいか・・。そんなの誰でも良い人生だったんじゃないかなって思ってきてるんだよ」 「奥さんが泣くぞ。こら」 「俺は妻も子供も愛しているよ。でも、時々そうじゃないんじゃないかって、思える時があるんだよ。いや、愛の話じゃないよ? 人生、人生の話さ。これは最も大きな話だよ。一体、この地球にはどんな意味が有るんだろう?」 「何の話だよ」 「いつか、この地球は滅びるだろ? そして、この宇宙だって、そのものが消えてなくなる・・。それは今の拙い科学力でさえ、証明されてる事実だ。じゃあ、一体俺は何だ? お前は? 全ての物に意味が無いって証明されてるようなもんじゃないか?」 「ちょっと、電話して来る。その間に、頭冷やせ」 「クソ・・」 「お前は何も思わないのか?」 「まだ言ってんのかよ・・」 「若い頃から、俺は刹那的だったのかもしれない・・。いつもそんなこと考えてんだから。でも、皆、何で平気なんだろう? 俺は不思議でならないよ・・・・」 「いいか? 少なくとも、俺らが生きてる内は、何も滅びないよ。そんなのただの作り話さ。未来はどう転ぶかなんて分からないだろ? それなら、人生それこそ一生懸命に生きるのさ。それが人生だよ」 「そりゃ間違ってるよ。終わりが有るからこそ、意味の有る無しが分かるんだ。例えば、ハッピーエンドならその前がどんなに悲しくてもやりきれる。バッドエンドなら・・。とにかく、全く無になるエンドなんて、どうしたらいいのか・・」 「そんなこと考えると、変な宗教にでも入っちまうぞ。お前は幸せだよ。だからそんなこと考えられるのさ。幸せがそれこそ人生のハッピーエンドじゃないか」 「そんな小さな話じゃないんだ。人類・・、いや、お前の言ったように宗教・・。どんな宗教にだって、人智を超えた神がいる。その神がいるなら、神は一体何を意図しているんだろう。いつか滅びるものを造るなんて。全くの無意味さ。神が創造主なら、大いなる快楽殺人者だろう」 「そんなこと言うもんじゃないぜ」 「神がいなかったからこそ、この世界があるんじゃないかな? そうだ・・。きっとそうだよ。太古に海から命が偶然生まれ、都合良く進化を重ね、今になった。だから、救いがないのさ。だから、人類は何かにすがりたがるのさ」 「ないものねだりってわけか?」 「そうさ。ん?・・誰だ、君は。う、グエエエ、エ、エ、エ、エ・・・・」 「死にましたか?」 「ええ」 「さようなら」 「あなたに依頼をしていて、良かったですよ。もう10センチメンタルだ」 「はい・・・・」 「では、・・」 「お前もないものねだりさ。答えの出ない代物に口を出すからだ。酒も旨く飲めない・・」
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