anthology

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somewhere stay again Lonely you  はすっぱな人が好きだ。 恋愛とかそんなんじゃなく。 煙草を吸っている女の人を見ると、決まって煤原(すすはら)まみを思う。 涙でイカれた人生が、そうさせたのかも知れなかった。 思原夜朝(しはらよあさ)は仕事終わりに喫煙所で煙草を二本吸うことを日課にしていた。 今は色々口実をつけて、フリーターをしている。 健常者に混じって、シフト表に自分の名前があることにまだ違和感を覚える。 誰にも言わないけど、僕はまだ生きるってことにどこか遠慮してる。 マイナスがスタートラインだった。 僕は精神疾患で就労支援B型の喫茶店に通っていた。 先輩が北霧喜(きたぎりよし)(ひさ)さんという年配の男性で、ほぼ僕と同じくらいに入って来た人が煤原まみさんだった。 所長は横暴な人だったけど、それでも何とかやっていた。 煙草を吸うのは、僕と北霧さんと煤原さんと決まっていた。 いつもつまらなくて、最後に残ったのが煙草という人達だった。 煤原さんは元アル中で「酒は止められるけど、煙草は止められない」と言っていた。 休み休みだったが、僕はここまで通えるまで回復したのだと思った。 ずっといつ飛び込もうかと電車のホームに立っていたこともあったからだ。 薬のおかげだろう。 喫茶の外で煙草を吸っていると、通りがかった人がいつも見てはいけないものを見てしまったといったような顔をする、ように思う。 自分にはどうしようもない逆境にある人ほど、運命を素直に受け入れてる。 この病気になって、自分自身が一番ちっぽけだと思える。 喫茶に入って、分かったことだ。 「オチって、簡単だから」と煤原さんは言う。 一万円札で払われた時に「一万円入りまーす」と言うのが、なぜか不思議だった。 みんないろんな障害を持っているが、きっと僕と同じ病気なんだろう。 北霧さんはいつも裏でオーダーを聞いた時に「マズい!」と言う面白い人だった。 北霧さんと僕は厨房だった。 煤原さんはフロアーだった。 煤原さんは長いこと休んだ。 僕も長いこと休んだ。 Bluebird  僕の重い症状が軽い抗うつ薬で劇的に快方に向かった時、僕は喫茶店を辞めた。 「ふさわしくない場所になったから」だと言った。 またどっかに行かなきゃいけない。 休む間もなく。 これからもその都度、病気に苦しめられることを予期もしないで。 病気が治っていないことを予期もしないで。 あまりにも長すぎた半生がこれからも続くのだろうか。 引け目にも負い目にも感じなくなる日が来るんだろうか。 その時、また僕はどっかに行かなきゃいけない。 休む間もなく。 懐かしくなんてない場所に。 最後の仕事を終えた時、俯いて煙草を吸っていた。いつもの喫煙所で。 煙草の煙は灰色。 北霧さんが僕の肩に手を当てた。 「煙草吸う時は、上向かなきゃ」 「すいません」と言いながら煙草を吸う。 北霧さんと煤原さんの乾いた笑い声。 「オチって、簡単だから」 僕は肯いた。 夜明け前が一番寒い。 「普通、か・・」 はすっぱな人が好きになった。 あけすけで。 オチって、簡単だから。 煙草を痛いぐらいに吸った。
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