最後のアガキでみる夢は

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(・・・・まだ、生きてた・・・・なかなか、人って・・・・) 頭で動悸を感じる。 起き上がろうと身体を右へ傾けるとわき腹に激痛が走った。 「うっ!!!」 余りの痛みに声が漏れる。 人間の身体はなんて精密にできているのだと感心する自分自身に口元が歪んだ。 わき腹に自然に手が伸びる。 (肋骨が・・・・) 左わき腹辺りの肋骨が変形していた。 夫とは今の時代でも一定数は存在する政略結婚。 私が育った家は男尊女卑が健在で、女性である私には自由意思が与えられることはなかった。 3歳年上の兄と2歳年下の弟に挟まれた長女として生を受けたが、物心ついた頃から同列の扱いを受けた記憶がない。 食の好みに始まり、衣服や小物等の身に着ける物、書籍や勉学に関すること等全てが親の管理下にあった。 将来の夫の『三歩下がって影を踏まず』を幼少期から徹底的に叩き込まれる。 物腰静かに、慎ましく、美しい所作と控えめな言葉使い。 貞淑であり、有事の際には身を挺して夫を守る度胸を持ち合わせる為、一通りの護身術も身につける。 言いつけを守らない行いが露見すれば折檻部屋へ入れられ、二度と同じ過ちを犯す事がないよう痛めつけられる。 痛みに耐性が生まれるのと同時に感情は色をなくしていく。 これは私にだけの特別教育で兄や弟には与えられない。 兄弟との待遇の違いに、当時は当たり前の事だと疑う余地すら持ち合わせていなかった。 人付き合いも制限される。 家同士の付き合いの中でしか他者と関わらないから友人と呼べる人もなく、ただただ、時が流れるだけの色のない世界。 それが私の少女時代だった。
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