最後のアガキでみる夢は

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到着ロビーで呼び止められた。弟だった。 8年ぶりの再会。弟は精悍(せいかん)な顔つきの青年になっていた。 「行く所ないでしょ。暫く僕の会社手伝ってよ」 思いもよらない誘いに私は目を丸くした。 「姉さん、変わったね。感情が表情に出てる」 道々の話で弟と元夫が連絡を取り合っていたことを知った。 「義兄さんに頼まれた。姉さんが日本で地盤を築く手助けをしてやって欲しいって」 私は更に目を丸くした。まさか、所有物だった私の行く末を気にかけていてくれいたなんて。 私は弟が用意してくれたマンションに腰を据え、弟が立ち上げたセキュリティシステム構築会社で手伝いを始めた。 私に依頼されたのは社内の管理体制を構築する仕事。ISO27001の認証取得体制を整える事だった。 寝る間も惜しんで私はアガいた。 その甲斐あって半年で認証取得準備、1年後には承認審査までこぎつけた。 認証取得まで行けば後は運用を継続していけばいい。 帰国してからの慌ただしさとアガキに懐かしさを感じた。 同じ頃、弟に長男が生まれた。義妹は弟と一緒に会社を立ち上げ、これからと言う時に子を授かった。 私が帰国した直後の事だった。 彼女はキャリアを積上げる事に誇りを持っていたから私に仕事を取られたと感じていたのだろう。 ISO認証取得のタイミングで弟から退職を言い渡された。 申し訳なさそうな顔の弟に「日本での住居、仕事を用意してくれたことに感謝しかない」と伝えた。 私の時間にまた新しい色が加わった。
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