最後のアガキでみる夢は

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16歳になると結婚相手が決められた。 相手は10歳年上で住宅メーカー勤務、実家は不動産業を営んでいるから修行と言う事なのだろう。 結納の席で初めて顔を合わせた彼は、柔らかな微笑みを向ける穏やかな印象の人だった。 月に一度、決まったコースのデートをする。 美術館や観劇の後のディナー。高校生の私が相手だから10時までには自宅に送り届けられる。 形式的なもので心躍る事など一切感じることのないお付き合い。 彼との年齢差と彼が実家の事業を引き継ぐタイミングで結婚をした。 大学で経営学を学びたいと思っていたが、元から許されるはずもなく、高校を卒業するのと同時に人妻となった。 夫となっても彼は始終穏やかで、私の時間は結婚前と何ら変わらず形式的に色がないまま過ぎていく。 心躍ることもなければ、失意に打ちのめされることもない。 私の周りにはいつも薄い膜が張られていて、外の世界と直接つながっている感じがしない。 お互いに柔らかな微笑みで向き合い、本心は全く分からない。 いや、本心と呼べるものが私には存在すらしないから、これが本心なのだろう。 私は夫を深く知ろうともせず、ただただ、時が自然にそして当たり前に流れていくのを少し離れた所から眺める様に2年を過ごした。 2年が経っても子宝に恵まれない私に両親は不妊治療を強要する。 子孫を残すことすらできないのであればお前に存在価値はないと罵られた。 夫と義両親は「そんなに焦る必要はないのでは?」と庇ってくれたが、頑として譲る気配は感じられない。 見かねた義両親は夫にロサンゼルス支社への赴任を促した。 一旦、夫婦で国外へ逃げなさいと言う事なのだろう。 何をしていても色のない世界だ。どこに行こうがそれが変わる事はない。 夫は直ぐに私を連れてロサンゼルス行きを決行した。
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