最後のアガキでみる夢は

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ロスでの暮らしで私は生まれて初めて自分に存在意義を感じた。 海外は夫婦同伴でのパーティーが多く、夫人も当たり前にビジネスに関わる。 むしろ夫人の教養が夫のビジネスチャンスを掴む事が珍しくない世界だ。 ここで私が叩き込まれてきた事が初めて日の目を見たのだ。 海外には日本文化に造詣が深いビジネスパーソンは少なくない。 特に歴史が浅いアメリカは、皇室の成り立ちや華道、茶道と言った『道』、神社仏閣、国宝や伝承される一品、古事記に日本書紀、源氏物語や枕草子等の古文、百人一首や川柳での言葉遊び、日本神話から始まる壮大な歴史ロマンについて興味を持っているし、知識も豊富だ。 生半可な知ったかぶりは即見抜かれ、信頼をされないどころかビジネスの話にすら及ばない。 一つの質問にまるでその時代を生きてきたかのように語ってくれると私の評判は徐々に上がっていった。 すると夫のビジネスも拡大していく。 夫婦で共に過ごす時間が増え、会話に深みが増していった。 私がポツポツと自分の考えや思いを夫に伝え出したのもその頃からだった。 半年が経った頃、夫からUCLAに通ってみてはどうかと提案された。 日本から出て、両親から離れる事ができたのだから今からでも遅くはない。学びたかったこと、やりたかったことを大いにしてみればいいと言うのだ。 正直、夫の言葉に驚いた。 それまで私の意思を尊重してくれる人はいなかったし、意思を持つことさえ許されなかったから。 形式的で穏やかな人だとばかり思っていた夫が、情熱的で生気が(みなぎ)り、愛情深い人に変容を遂げた。 その夜、私ははじめて夫と心身ともに繋がった気がした。
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