最後のアガキでみる夢は

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最初はよかった。利息収入がみるみる増えた。 本業とは別の収入が増えるからと夫は会社でも金融商品を購入し始めた。 取引額が増えれば利息収入も増える。 本業の収益を利息収入が上回った時、私は夫に「投資家ではないのだから本業に力をいれてはどうか」と意見した。 経済の歴史を紐解いても天井が見えない時が一番危ない。大恐慌しかり、日本のバブル崩壊しかり。 夫は笑いながら「心配はいらない、大丈夫だから」と取り合ってくれなかった。 案の定、利息が減少し始めるとそこからは早かった。 売ろうとしても売れない金融商品と勢いを無くした本業。 会社の業績が下降しだした所に証券会社が破綻した。 手に残る金融商品の価値はなくなった。 夫はみるみる衰弱していった。 従業員の報酬を支払う為に個人資産を投入していく。 ロサンゼルス支社は風前の灯火となっていった。 夫は酒に逃げる様になった。 部屋に籠り、仕事にも会合にも顔を出さず、昼頃に起きたかと思うと食事も摂らずに酒を煽る。 あんなに穏やかで、優しく投げる微笑みは影を潜めた。 『有事の際には身を挺して夫を守る』と叩き込まれ育った私は夫の危機に奔走した。 それまで頻繁にパーティーでお会いした方々、UCLAでの知り合いの元へ通い打開策を探した。融資のお願いもした。 ただ、どこも同じように逼迫した状況で、私の行動は実を結ぶことはなかった。 それでも諦めずに毎日出かける私の姿に夫が感化されてくれるはずだと信じて、私はアガキ続けた。
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