最後のアガキでみる夢は

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ある日、夕食の時間に少し遅れて帰宅すると夫はリビングソファーで横になっていた。 「こんな所で寝ていると風邪をひきますよ」と声を掛けるとクルリと首を回して私をじっと見つめた。 「こんな時間までどこで、何をしていた」 ボソボソと呟く様に言葉を発している。 思えば夫とまともに言葉を交わすのは一月(ひとつき)以上振りだ。 私は夫が仕事に関心を向けてくれたのだと思い嬉しくなった。 信じていてよかった。安堵もあったのかもしれない。 満面の笑みを夫に向けた。 その笑顔が引き金だった。 夫は「くそっ!」と大声を上げ、ダイニングテーブルに着こうとしている私の胸倉を掴んだ。 そのままテーブルに背中を打ち付けられ罵声を浴びせられた。 「お前っ!私を馬鹿にしているのだろうっ!どうしてそんな顔で笑えるっ!あの時、お前の話を聞いていればこんなことにはならなかったと嘲笑っているのかっ!毎日、毎日、これ見よがしに出かけてっ!成果はあったのかっ!それとも何かっ!私の不甲斐なさを公言して回っているのかっ!今日、仲間からメールが来たっ!お前が会社と君の為に奔走しているぞとなっ!私が頼んだかっ!お前になにかしてくれと頼んだかっ!頼まれてもいないのにお前如きがっ!お前が動けば私の無能さが明るみに出るだけだとなぜ解らないっ!お前は私に言われるまま動くマリオネットでいいんだっ!それがお前の役目だろうっ!!」 私をダイニングテーブルに押し付け、涙を浮かべ罵声を浴びせる夫の行為より、その内容に言葉を失った。 夫は私の事を『マリオネット』と言ったのだ。 共に暮らして7年、夫は私に初めて意思と意志を持たせてくれた。 大学行きもビジネスへの関りも夫が導いてくれたからこそ挑戦できた。 両親や義両親からの子宝の催促にも盾になってくれた。 色のなかった私の時間に色を与えてくれた。 でも、それらは全て夫の自由になる『マリオネット』だったから。 私は夫の所有物でしかなかったのだ。 きっと、幼少期に育った環境で人として扱われていたのなら、夫の言葉に悲しむ姿を見せる事ができたのだろう。 両親と何ら変わらない夫の言葉に私は口元を歪めることしかできなかった。 この私の表情に夫は激昂した。 私の衣服を引きちぎり、無抵抗の私を乱暴に羽交い絞めにした。 自分自身に言い聞かせる様に「お前は私のマリオネットだ」と何度も何度も言いながら執拗に私を抱いた。
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