最後のアガキでみる夢は

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不思議と落胆はしなかった。それより嫌な予感が的中した直感の精度の高さに感心していた。 こうなっては逃げ場はない。貞操を守るために自害をするのが家門の習いだが、所有物として譲渡されたのだから価値を落とすわけにはいかない。 私は「お言いつけのままに」と一言告げた。 いよいよと言う場面になって隣の部屋の扉が勢いよく開いた。 腕を掴まれ抱き抱えられる。 夫だった。 毛足の長い絨毯の上に跪き、融資の話はなかったことにと懇願した。 土壇場で譲渡品を取り返す行為に相手は不愉快極まりないといった表情で夫の会社はロスでのこの先ないと思えと吐き捨てた。 夫はロサンゼルス支社の撤退を決めた。 日本に戻る日が近づいたある日、夫から折り入って話があると言われた。 支社の撤退を決めてからの夫は徐々に生気を取り戻し、それまでの穏やかな顔つきに戻りつつあった。 私に振った暴力と暴言、行い全てが取り返しのつかない事だと詫びたその後で「これ以上、君に辛い思いをさせられない。離婚をして欲しい」と頭を下げられた。 日本への帰国は夫と別行動だった。 私は離婚を受入れた。ロスを立つ前に両親から勘当を言い渡された。 最期の言葉は「一族の恥さらし。日本にお前の帰る場所はない」だった。 誰も私を管理しない世界が始まる。 帰る場所は失うが目の前に光が射している気がした。
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