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僕はいつもの道をいつもと同じように歩いて行く。
僕の家から少し歩くと甘い香りの漂う花がいっぱい咲いた広場があるんだ。
そこに行って花を見て和んで、そしてもう少し足を伸ばして森の方へ行くのが僕の朝の日課なんだ。
僕はいつも一番乗りなんだけど、その日は珍しく先客がいた。
ロザリーだった。
悪い子じゃないんだけど、僕はロザリーが少々苦手で…だから気付かれないように、ゆっくりと回れ右をした。
「アルフ!」
声をかけられ、僕は心臓が止まりそうになったけど、そんなことを悟られないように何気ない顔をして振り向いた。
「や、やぁ、ロザリー、君も来てたの?
珍しいね、こんな早くに君がここに来るなんて…」
「なんだか良く眠れなくて……家にいても気が晴れないから出て来たのよ。」
「そうだったの。
君がよく眠れなかったなんてめず…」
言いかけた言葉を僕は飲みこんだ。
ロザリーはすぐにそのことに気付いて、小さな溜め息を吐いた。
「私だって、たまには悩んだり落ちこんだりすることはあるのよ。」
「……ごめん。」
彼女には僕の気持ちが読まれてたみたいだ。
ロザリーは、いつも元気で気が強くて、思ったことをズバズバ言う性格なんだ。
彼女は、友達も多く、たいてい誰かと一緒にいて、一人でいること自体、珍しい。
今日は、普段の彼女とはずいぶん違うことをしているのだから、きっと何かショックなことでもあったんだろう。
正直言ってそれほどの興味があったわけではなかったけど、何も聞かないのも悪いような気がして、僕は一応訊ねてみることにした。
「なにかあったの?」
「実はね…昨日、メリッサがいなくなったの。」
「……メリッサ?」
名前を聞いても、すぐには思い出せなかった。
ロザリーが、メリッサの特徴をあれこれと話すうちに僕はメリッサのことをぼんやりと思い出した。
確か、何度か話したことはあった筈だけど、これと言った印象もない地味で目立たないタイプの女性だった。
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