最終話 

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最終話 

 市の施設の中にあるまだ真新しい剣道場。  下は幼稚園、上は小学六年生まで。年齢の差は大きいが特に大会とかに出るわけではなく、気軽に剣道に親しみ、作法も学ぶ、ゆるくやっているクラスだ。土曜日の午前中、この時間帯は二人の男性が剣道を指導する。  一人は元警察官で日本一の腕を持つ男、そしてもう一人は元高校教師で剣道部副顧問で現在は市の職員と子ども食堂を運営する市役所職員、槻山湊音である。湊音は高校教師を辞めた。  この日は他の道場から師範が来て三人体制で指導する。そして小学生男子の親の参観日だ。数人ほどの親たちが我が子の成長をビデオで撮影している。  湊音は一人、普段ここでは見かけない人物がいることに気づく。  目線の先には美帆子。彼女の目線の先にはクラスの中では一二を争う腕前の美守、小学四年生、美帆子の息子でもあり湊音の認知した息子でもある。  湊音はつい美帆子に目がいく。  そして隙を見て彼は美帆子の元に。 「お世話になっております、湊音先生」  丁寧に頭を下げる美帆子。湊音も頭下げる。他の保護者と少し離れて二人横に並ぶ。そして二人の目線は同じだ。 「美守、前見た時よりも上手くなってる」 「だろ。てかこの施設に道場移ってから来たの初めてでしょ」 「そうね、それ含めて二年ぶりに生で見るわ。しばらく動画だけだったから」  二人の間には指導者と保護者以外の関係性がある会話の仕方だ。他の保護者にはバレぬよう。 「……ほんと、大きくなったな。今一番先下の生徒さんくらいの時に美守が剣道始めたから感慨深いよ」 「ほんとねー」  周りの人はこの二人がどんな関係性なのかわかることはない。  まさか二人が愛しに愛し合ってできた子供が菅原美守だということも。   ふと一瞬の間に過去のことを思い出す湊音。   「剣道なんてやるか、て思ってたけど美帆子さんの前でこてんぱんにやられたの悔しかったのか教師になってやっぱやろうと再起したおかげで美守に指導もできてるし、美帆子さんにもまだ会えてる」 「悔しかったんだ」 「まぁ大島先生の下で働くことになったから副顧問無理矢理やらされたのもあるけどさ……」  と美帆子の顔を見る。50近くの彼女だが、他の保護者に比べると美しく湊音が惚れたあの頃とも変わらない美しさだと今でも思う湊音。  湊音は離婚してから二人ほど女性と関係を持ったが美帆子を超える女性はいないと思っている。 「……美守がこうして剣道してるから来てるだけであってさ。本当は来たくないし」 「だよねー」 「なにがだよねー、よ。そんなこと言ったらあなたのパートナーさん、怒るわよ」 「別に」  湊音は笑うと美帆子も笑った。湊音も離婚して数年後に同性のパートナー結婚した。美帆子も5年前に年上で60代の男性と結婚した。人生何が起こるかわからない。 「何笑ってるのよ」 「さぁ」  二人の目線の先は同じ。 「美守も自分から剣道やりたいとか思わなかったよ」 「そうよねー。あなたのことも相当慕ってくれてるし。でも今の父親の顔も立ててるし四年生の割にはしっかりしてるでしょ」 「そうだな、子供のくせに」 「ねー」  また二人は同時に笑った。 「はい、そこまで。休憩」  指導者の一人がそう声を上げると二人は離れた。  周りの誰も二人に何十年以上のドラマがあったなんて知る由もない。  美守は指導者であり、自分の父である湊音に礼をし母の美帆子の元にお茶を飲みに来た。 「2人、仲良いね」 湊音は美帆子を見た。 「まあね」 そんな長ったらしいドロドロなドラマなんぞまた息子には知られたくない2人だった。  終
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