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湊音 第四話
その日にメモに貰った連絡先にかけたりメールをすることはなかった。だが彼女の事を思い出しながら自慰をした。彼女のことを思いながらするのは今夜が初めてだった。とてつもなくいつも以上に興奮した。
彼女の顔や体や声を思い出し、大島に抱かれている時のあの声を重ね……今までの中で一番興奮した。家族が他の部屋にいるから声を出しそうになったのを抑えるのに必死だった。
果てたあと、僕は気持ちよく眠りにつけた。でも夢の中でも彼女を抱く夢を見た。やはり朝起きると夢精していた。
数日前と同じようにブリーフを洗いに行って家族が来ないうちに新しいブリーフを履きなおした。
台所に行くと母さんがご飯を用意して父さんも新聞を読んでいた。
「ミナ君、なんか昨日帰ってきてからちょっとご機嫌だったけどなにかいいことでもあった?」
母さんは勘が鋭い。父さんもそれに反応する。
「なんでもないよ」
僕は置いてあったおにぎりをほおばる。とにかく食べる。話しかけられても答えない。父さんも何か聞いてきたけど聞こえないふりをした。
「ごちそうさまでした」
僕はすぐさま食べ終わって歯磨きをして学校に向かった。
その日から倫典がリードして職員室に足しげく通い、僕と倫典と三葉先生と美帆子先生と話すようになった。
昼も一緒に食べようって倫典から提案してくれて一緒に食べて話をするが三葉先生の話は本当に面白くて聞き入ってしまった。おかげで美帆子先生の話はまだ聞けていない。
授業はというと美帆子先生は少し声のトーンを上げて少しは寝る生徒も減った。聞くところによると大島が親身になって話を聞いてくれて授業のコツも教えてくれたんだとか。
まぁそれが普通の教育実習ではあるのだが。
少しずつ上手になっていく姿を見るのもいいものだ。大島も授業でところどころアドバイスや補助に入って助けていた。
この男、三葉先生を狙っていたのに今じゃ美帆子先生に付きっ切りなのか。三葉先生の事完全にあきらめたのか。美帆子先生じゃなくて三葉先生にあきらめずにアタックしてくれたっていい。
でもそんなことしたら倫典がかわいそうだ。一生懸命だった倫典は自然体で三葉先生と話しているのを見るといい雰囲気だなぁって。三葉先生も他の取り巻きよりも倫典と話している時の方がリラックスしているようにも見られる。
お似合いだなぁ、って自分の事よりも人の事ばかり気にしてた。だめだだめだ。
「湊音君」
「はい……」
急に声をかけられると緊張する。
「メモ、見たかな」
「はい。ごめんなさい、電話もメールもできませんでした」
「いいわよ、私もいきなりあんなの渡しちゃってさ。困ったよね?」
あぁ、困ったさ。僕は困った。困った挙句に美帆子先生を想像してしてしまったのだ。
にしても簡単にメモを渡すなんて、大島にも同じことをしたのだろうか。それにただメモを渡したわけではないのだろう。彼女も何か僕のことを思って連絡先を書いたものを渡す、本当にいったいなんなんだよ。
大島とあんな関係になっているのに僕にそんなことをするのか。どうしたんだ、なにか僕と……。
って口にして言えばいいし聞けばよかったのにできない自分って情けない。
「オイお前ら、教育実習生にちょっかい出すなよ。さっきも昼ご飯一緒に食べてたしよ」
うわ、大島だ。
「ちょっかいじゃないですよ。交流ですしこうやって生徒と話しをすることも先生の仕事の一つだし、ある意味これもリサーチの一つですよね、三葉先生」
倫典がそういうと三葉先生も、ええとほほ笑む。美帆子先生も続けて。僕は何もできなかったけど。
大島が僕に寄ってきた。だがすぐに美帆子先生の横に立つ。
「美帆子先生、三葉先生、この子たちの相手も大変でしょう。無理にしなくていいですからねぇ」
「いえいえ、とても楽しいですわ」
三葉先生は大島の言葉をスルーしてる。さすがだ。ざまーみろ、大島。三葉先生は倫典を連れて職員室を出て行った。しまった、僕もそのタイミングで出たかったが美帆子先生を置いていくわけにはいかなかった。
「美帆子先生。ちょっと先程の授業の件で話をしたいんだが」
「は、はい」
まさか、そういってまた……。美帆子先生は僕を見る。
「ごめんね、またお話ししましょうね」
だめだ、このまま大島と二人きりになったら。
「美帆子先生。早く来てください」
大島と二人きりになってはだめだ。
「えっ……」
僕は美帆子先生の手を握って彼女を連れて職員室を出た。
「湊音君!」
いろんな人に見られたけど恥ずかしかった。後ろから大島が追っかけてきたけど僕らは走った。
うまく切り抜けて二人で屋上まで走っていく。
でもその手前の扉は閉まっている。だから屋上までは出られなかったがその前の小部屋に僕らは息をひそめて座った。
大島の大きな声が通り抜けてここがばれていない。
「なにしてるのよ」
「……大島と二人きりにさせたくない」
「どういうこと」
「どういうことって、美帆子先生……大島に……」
言うのをためらってしまう。あの行為を聞いていただなんて言えない。
すると美帆子先生が僕を抱きしめた。やわらかい、暖かい、いい匂い。初めて家族以外の女性に抱きしめられた。
彼女は泣きだしたのだ。
「……ありがとう、湊音君。助けてくれて」
助けてくれて……同意なしだったのか、大島との……くそっ。
「だから僕に連絡先を渡したのか」
「うん。湊音君は知ってたの?」
僕はうなずいた。すると彼女はさらに泣いた。あぁ、なんてことだ。
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