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昼休み終わるまで二人でここにいるのか、あまり時間が無い。掃除の時間になったら強制的に教室に戻らないといけない僕ら。
でも今は戻すわけにはいかない。だが彼女から離れた。
「ごめんね、やっぱり行かなきゃ」
「駄目だよ、今行ったら」
「大丈夫」
目を真っ赤にしている。
「湊音君怒られちゃう。私からちゃんと言うわ。湊音君を連れだしたのは私。私が怒られるから。それにあくまでも私は今教育実習生であるし」
「そんなことしたらもっと立場悪くなるじゃん。それに……」
「……」
「僕の父さん、ここの地域の教育委員会のえらいやつだから父さんの名前出せば大島もひるむ。前も生徒をいじめていた先生、チクって辞めさせたから」
美帆子先生は首を横に振った。
「大島先生を辞めさせるのは」
「辞めさせるわけじゃないけども……美帆子先生も嫌なんだろ? 無理やり……」
後ろから足音が聞こえてきた。大島だった。
「そこにいたか。湊音」
「大島、下衆だな」
「何を言う。美帆子先生は俺の女だ」
女……その言い方。美帆子先生……困っているじゃないか。
「美帆子先生。だめじゃないですか。お昼からも授業あるし、ちゃんと打合せしないと」
なれなれしく彼女を触るな……。
「それにお前も簡単におやじの名前出すなよ。中にはごますってお前をかわいがるやついるけどもよ。俺はそんなことしないから」
「大島、おまえがやってることはひどいことだぞ!」
「ひどいことって?」
「まずもって学校であんな……」
気持ちが高ぶってうまく言葉が出ない。大島は笑ってる。
「ちょっとあの時は……抑えきれなくってな。でもあれっきりだ。ってお前に見られてたのか」
「聞こえただけです」
「どっちでもいい。お前、美帆子に手を出すな。ちょっかいだすな。あと三葉先生にもよく言っておく、他の実習生にも生徒と話す暇はないぞと」
くそ……。
「さぁ、そろそろ掃除の時間だ。二人とも戻れ」
「はい」
美帆子先生は大島と階段を下りてしまった。
「なんなんだよ……」
僕が彼女を心配してここまで連れてきたのはなんのためだったんだよ。結局最後は大島の右手を握っていた美帆子先生。
どうして欲しかったんだよ、僕に。
その後、三葉先生も倫典としゃべることもなかった。
「お前が美帆子先生連れて走ったやつやばかったんじゃねぇのか」
すごく彼は落ち込んでいた。結構いいところまで行っていたらしい。連絡先を聞けばよかったと机に突っ伏していた。
すまない、倫典。
美帆子先生の授業、上手になっていたけどそのあと生徒たちと話すこともなく教室から出て行った。気のせいか僕と目を合わせないようにしていたようだが僕はずっと見ていた。
「なんかさ実習生の人たち急に冷たくなったよね」
「つまんねーの」
「まぁ彼女たちも大学の授業の一環だから仕方がないんだよ」
他のクラスメイト達が僕を見ている。僕をしたことはすぐに広まった。何人かが僕の席にやってきた。
「お前も親父が教育委員会のなんちゃらか知らないけどさ、実習生に手を出そうとして振られたの伝わったらやべえんじゃねぇの」
「振られたって……違う!」
「美帆子先生が泣いて教室出ちゃったときに追っかけてったもんなぁーお前」
うるさい……うるさい! 他の生徒たちも来て僕を囲んだ。
「あぁ、いやだなぁ。せっかくの楽しみが無くなっちゃったー」
「どうしてくれるんだよ」
倫典の方を見たが他のクラスメイトに囲まれている。
「倫典も三葉先生にちょっかいを出したらしいなぁ、やたらと付きまとってたからお前も悪いよな」
「ごめんなさい」
「お前ら二人が手を出したんだろ、コノヤロウ」
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