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「あ、あ、あ、あ、あ、ああの……」
電話先からふふふと笑う声がした。
『湊音君、でしょ』
「は、はいっ……仕事終わりましたか」
『終わってね、もう家にいるの』
「は、はやいね」
『そうなのよ、今日は週末だし早めに帰ってって。まぁ今日の事もあったしね』
「すいません……僕がいけなかった」
『ううん、私がいけなかったの。あのあと私も三葉も怒られてさ、他の実習生からも総すかん。生徒と交流できなくなったって。でもまぁ教育実習だから遊びに来たわけじゃないからね』
申し訳ないことしたなぁ。美帆子先生たちが責められてしまった。
「電話してすいません。学校ではもうしゃべれないし。てかこの電話出なかったらもうメモを捨てようと思ってて」
緊張して声が上ずる。呼吸を整えてもだめだ。
『そうよね、捨ててもよかったのに』
「い、いやそれは出来なくて電話したんです」
『私、電話にでちゃった』
「電話出てくれてうれしいです」
あぁ、気持ちが出てしまった。恥ずかしい。
『私もあなたとお話もっとしたかったから』
でもなぜ美帆子先生は僕に……他にも生徒がいる中で。
「なんで僕なんかに」
『うーん、なんとなく。優しそうな顔してたから』
「大島とは違うぞ」
『そうね、体格も性格も顔のタイプも違う』
「って、だから……そのさ、電話するだけで連絡先を?」
そうだ、そこが本題だ。
『ねぇ、明日って午後から空いてる?』
!!!誘われた。会う、会いたい……でもどこで? 急な誘いに声が出ない。
『って、だめだよね』
「だ、だ、大丈夫です。空いてます。どこで会いますか」
『あ、うん、じゃぁ……古虎渓駅で会う? あそこ無人だし快速は通らないから普通電車で来てもらって』
「はい、行きます。13時前後に……待ってます」
『すごくはきはきしてしゃべれるんじゃん』
あぁ、勢い余ってしゃべってしまった。約束しちゃった。てか大島とはデートじゃないのか。あ、あいつは部活か。
『じゃあもう切るね』
「えっ」
『うん、じゃあ』
「は、はい!」
電話を置いて僕はベッドに飛び込んだ。約束、しちゃった。会う。学校以外で会う。あぁ。
「湊音ー受話器知らないかー」
父さん、起きた。ふと時計を見ると7時半。僕は慌てて子機を部屋から出てリビングまでもっていった。
「はい」
「いや、使わないけど。使ったら戻しておけよ」
なんだよ……。
「よかったな」
「えっ」
「明日、13時過ぎに。聞こえたぞ、バカでかい声で」
「まじかよ」
僕は膝から崩れ落ちた。
「母さんには倫典くんと出かけてるって言っておくし。もしお泊りになったらうまくいっておくから」
「お、お泊りだなんて……」
「まぁ早く帰ってくるんだな。それが男だ」
意味わかんねぇ。説教長くなりそうだ。
「はいはい」
僕はさっきのうれしさの余韻に浸りたくって部屋に戻ってまたベッドに横たわる。にやけが止まらない。
楽しみだ。
ああ。
青春だよな、これって。
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