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夜は飲み会……別に行かなくてもよかったし三葉と2人でどこかご飯を食べてもよかった。
私1人だし、家帰っても。
それに実習生は無料だって言われたからつい。と思ったけど半数は家から遠いから、という理由で来なかった。
でもまぁそこそこ集まったけど既存の先生たちの飲み会も兼ねているらしい。
私は三葉の横に座っていたけど彼女はすぐいろんな先生のところにお酒を注いで回っていた。さすがだ。あそこまでの気配り……別にできなくはないけど女だからお酒を注ぎに行くていうのが私の中では納得いかなくて。
そういうところがダメなのかな。
「おい、飲んでるか?」
隣に大島先生がやってきた。昼に会った時の汗だくの剣道着姿とは違ってオシャレなスウェットとジーパン姿。
そしてつい左手薬指を見てしまうけど指輪はない。日焼けしてるけど指輪の跡もない。剣道してるから指輪外してるのか。
なぜここまで見てしまうのか。そういう癖がついたのもあの人のせいだ。
「飲んでないじゃんかよ、酒嫌いか?」
「……まぁ、どちらかといえば」
飲ませられるのかな。大抵そうなのよね、こういうお酒の場って。
大島先生は頬を赤らめてお酒を飲む。結構飲んでいるのだろう。
「無理して飲むな。酒飲めない分食べろ、もったいないぞ」
「はい……」
普段少食だし居酒屋メニューはギタギタして苦手。
てかこの人、三葉のこと見てたしさっきも三葉に声をかけてたけど彼女はさらっとかわしてた。なんで私の横に? ああ、担当だからか。
「聞いていい?」
「はい?」
「三葉さんて君の友達?」
やっぱりこの人は三葉狙ってる。
「そうです。でも大学出てからはなかなか会えなくて」
「そうか。進路違うとなかなか会えないよな。彼女は彼氏いるの?」
私にそんなこと書いても何にもならないわよ。
「今はどうか。前はいたと思うけど二回とも彼氏違ったわ」
「やっぱモテモテだなぁ、男も黙っていられんわな」
2人で三葉が他の男性教員たちと話している姿を見る。
「ですねぇ」
「……」
大島先生が私を見ている。三葉を諦められない情けない人。
「君は彼氏いるの?」
えっ……何聞いてくるの。
「いません。あなたは?」
と聞き返してみた。彼はビールを飲み込んで
「いないよぉ」
と笑った。
「2年くらいいない」
「私もです」
「まじか。大学生の時にもっと恋しておかないと。先生になってから恋しようと思ってもなかなか出会いなくてさ。結局先生間で、というのが多い」
「じゃあ大島先生も?」
「まぁ、2年前の彼女は。でも違う教師にとられて2人して転勤した」
教師同士の恋……なんで狭い。
「まれに生徒と先生ってあるけど色々大変だぞ。相手が卒業してから、はまだいいが在学中に手を出して問題になって辞めた奴もいるからな」
「……それは問題ですよね」
「流石に俺は生徒には手を出さん」
「生徒には……」
「ん。まぁ……それに年離れてるよりも少し近いほうがいいしな。俺は28だけど美帆子さんは……大学四年だからまぁそこそこ離れてるな」
「ですねぇ」
「美帆子先生は年齢差はどう思います?」
なによ、何聞いてくるのよ。酔ってるのかしら。
「別に性格次第です。年上だろうが年下だろうが」
「まぁどんな相手にも分け隔てなく愛する事が教師としては大切なスキルだ」
ああ、それが言いたいがためのことなのね。意識しすぎだったのは私のほうだったわ。
「にしても酒飲めないのにさ、なんでここにきちゃった?」
「……家帰っても1人だし、三葉も行くっていってたし」
「俺も寮だしなー賑やかなところが好きだ。一人暮らしか」
いや、やはりグイグイ聞いてくる。
「はい」
「俺は妹が北海道に嫁いでな、あとは全員死んだからほぼ1人」
……彼も?
「いやー辛気臭い話嫌だから別に親いなくてもあれよ、平気。剣道師範のじいちゃんが昨年死んだけど育ててくれたし」
「……私も、一人」
「えっ?」
「私、両親親戚いないの……祖母の仏壇を置いてくれている遠い親戚くらい」
ちょっと暗い話になったかな。大体それを言うとみんな話に困る。けどいつかはわかることだし。
「いずれ人は一人になるさ」
目を見て笑う大島先生。彼は本当に両親を亡くしてもそんな平気でいられるのだろうか。
私は、あっという間だったからなぁ。
「なぁ、外の空気吸うか?」
「はい」
何か私たちの中で分かり合ったのかわからないけどそのあと私の部屋まで一緒に歩いて部屋に上がって体を交わるには時間はかからなかった。
久しぶりの、男の人の身体。
ああ、明日から実習なのに。
「美帆子、俺の女になってくれないか?」
「……」
あえて答えずにいたら大島先生はそのまま寝てしまった。
……心の中にぽっかり空いた私の中に入り込んだ彼はそこまで埋まるものではなかった。
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