美帆子 第二話

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私は湊音くんの父、槻山広見と付き合っていた。 彼は高校の時の担任で三葉も生徒の1人。通っていた高校もまだ廃校になる前だ。 高校の時に両親や親族の不幸が重なった際に彼が支えてくれたのだ。 バスで通っていた私は大雨でダイヤが乱れて帰れなかった時に車で送迎してくれたり、各種手続きに付き添ってくれたりしてくれた。 気晴らしに彼の趣味である登山を楽しみ悲しみを晴らしていた。 いつしか感謝、尊敬から恋心を抱くまでに時間は要しなかった。 でも彼には妻子がいるのはもちろん知っていたのに土日祝日、家庭よりも私のほうにも気にかけてくれたのだ。 どうやら家族は山登りが好きではないらしく、一緒に山登りしてくれる相手が欲しかったらしい。 そして大学入学後、彼から恋心を抱いていると言われ私も、と伝えるとその日のうちに私たちは結ばれ激しく愛し合う日々が始まった。 先生は私が高校生の時には絶対手を出さないでくれた。私もダメだ、ダメだと我慢していたがその気持ちは互いに限界に来ててそれをぶつけ合うように……。 だなんて嘘だ。手を繋いだり抱きしめたりはしていた。 だがそれ以上はいかないように彼は抑えていたのだ。伝わる体温、鼓動、息づかいで必死に抑えているのがわかっていた。私は彼の体に顔を埋め抱きしめられ暖かさを感じ幸せでいっぱいだった。 お父さんにもこうして欲しかった。お父さんはこんなに温かくもない、抱きつきたくても常に点滴やチューブやらが体についていたし。我慢していた。 好きだって互いに言葉にして交わって……それから幸せはあっという間に薄れていく。 だんだん彼の欲深さが感じられてくるし、男というギラギラとしたものが嫌になってきた。 私も勉強とバイトで忙しく彼も廃校になっめ教職から若くして教育委員会に入り多忙を極め少しの時間しか取ることができなくなったがその時間はセックスを求めてきた。 すぐ求めてきて終わったらすぐ帰る、そんな日々が続いたある日。異変に気づいた。 彼の下着であるボクサーパンツがアニメチックなくま柄だった。普段は柄物は履かない。黒か赤色か。なのに……。 私はそれをじっと見ると広見さんは気まずそうな顔をしたのだ。 「……妻がな、気づいてるみたいだ。わざとこんなのを履かせて……」 やっぱりバレていたか。嫌気がさしてから無意識のうちに目立つところにわざとキスマークつけたり香りの強い香水をつけて彼と会ったりして私のマーキングを彼にしてきた。もうバレてこの関係を終わりにしたい、だなんて思っていたのだろう。 目の前に座る熊柄パンツを履く中年男。一気に見窄らしく見えた。 高校の頃はとても紳士で優しくて面白くていい先生だと思っていたのに。 互いに交わった途端に、常に頭の中セックスばかりで、なんだかんだで束縛してきて、話も長くてウザくて自分勝手な不倫下衆野郎にしか思えなくなっていた。 私の高校時代、彼に恋して大学2年まで彼と付き合いこの5年、青春盛りをこの男に踏み潰されたと思うと……。 「……ねぇ、もう別れましょ。奥さんからの警告よ」 「美帆子ちゃん」 「そのちゃん付けも気持ち悪いし、たまにイク時奥さんの名前叫んでたし、寝言もね」 「そ、それは……」 「普通、生徒に手を出す? 高校の時も手を繋いだり抱きつくとかありえないでしょ?」 「す、す、すいませんでしたっ!!」 広見さんは頭を下げた。こんなにすぐ謝る人、きっと奥さんにもこんなふうにヘコヘコしてるのかな。 「私の青春返せ! この下衆!」 この時ばかりにと本音を言ってしまった。 広見さんはそう私に言われて口をぽかんとさせてそのまま服を着替えてトボトボと帰っていった。 今思えば彼も何かやきっかけで私と別れて不倫をやめたかったのかもしれない。 でも体の関係はやめたくなかった、最低。 おかげで2年生まで私は先生以外の男を知らないまま。かといってその後はバイトと3年生になると就活……と言っても私は教職だから教育実習の準備や練習などもあって……ああ、一度同じ教職の違う学科の男と成り行きで寝たけどその男は教育実習の時にはもう退学していた。 広見さんとどう違ったのだろう、なんか特に特徴もなく……。 そんなこんなで私が教育実習に来たクラスに広見さんの息子、湊音くんがいたわけだ。 こんな偶然あるのだろうか。 広見さんに似てない外見、なんか無垢でまだ幼い感じもする。 だが彼からの視線を感じる。私のことを知っているのだろうか。
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