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「めっちゃやばかったなぁ、あんな可愛い子がうちの教育実習生だって……て、湊音聞いてる?」
僕、槻山湊音はついさっきまで目の前にいた女性が自分の脳裏から離れずにいた。
「お前もあんな目の前で可愛い子立ってたらやばいだろ」
「そうかな……」
と誤魔化してみたが内心ハラハラしてムラムラしている。こんな気持ちは初めてだった。
これが恋なのか、て……恋する気持ちは今までは体感したことがなく、好きな読書の中でいくつかの登場人物が恋をしていたのを読んで疑似体験していた。
それをこう体感すると予想以上に心拍数が上がるものだと。登場人物の気持ちがわかった。
好きになるとどれほど相手を愛おしく感じ、キスしたくなり、抱きしめて欲情する……。
あの自己紹介の後の大島による朝礼は上の空だった。石鹸のいい匂い、彼女から漂い、先の後ろに立っているのに気になって気になって仕方がなかった。
私語が禁止されている朝礼が終わった後は糸が切れたかのように他のクラスメイトの男子たちも美帆子先生の美しさに話始めそれを女子生徒が冷たい目で見ていた。
僕と倫典はおとなしい方で2人でいつものように窓際に座っていたけど僕は時間が過ぎても授業を受けていても立ってもいられなくて右往左往していた。
「ああいうのがタイプか。だが俺は違う。朝職員室で見たけど隣のクラスの女子大生の方が好みだ」
倫典と僕は好みが違うのはわかっている。高1の頃会った時からそうは思っていたが好みは違えど落ち着いて話せる関係。彼が引っ張る感じだから僕はついていく、ちょうど良い。
彼はこの地区では有名な病院を運営する家系でボンボンだが三兄弟の中で頭が悪くてヘタレだからとヘラヘラしてる三男坊である。
「どんな先生なんだい」
「名前はわからんが美帆子先生はキュート、あっちはセクシーだな」
「相変わらずだな」
「可愛い美帆子先生もいいけどさ、セクシーな方がいい。よかったな! 俺たち好み被らないから喧嘩しない」
「知るかよ、それに大学生に相手にされるかよ。あっちからみたら僕らはガキだ」
「まぁ確かに……てか昼休みに見にいこうよ」
倫典の気になるセクシーな方も気になるからしょうがなくいく。少しでも歩いたほうがムラムラもおさまる。
美帆子先生の授業も昼休み終わったら始まるし……。それまでにはこの気持ちを抑えないと。
倫典はもう1人の先生がいないとあちこち探していて最後に辿り着いたのは剣道場。
「なんでここまでいくんだよ」
「あちこち探してもいないからここに来てるかなーって」
「いるわけないだろ。それにここにいるのは大抵……」
「お前は剣道室、俺は体育館行ってくる」
「まじかよー」
1人の女を探すために必死すぎる倫典。僕はどちらかと言えば美帆子先生に会いたい。でも彼女もいない。どこに行ったのだろう。
剣道場の横には更衣室と監督室があって担任の大島が剣道部の顧問をしている。そこでタバコを吸ってて呼び出し喰らうとそこで説教を受けたりもする。
剣道部は男子しかいないしこんなむさ苦しいところにあの美帆子先生がいるわけがない……。
しかし僕はすぐに打ち砕かされた。
「あっ……せんせっ……」
この声は……。
監督室から聞こえる。
「ああっ!」
美帆子先生の声……。
男の呻き声。大島だ。壁越しから聞こえる。男女の愛し合う声。
僕の両親の部屋からも時たま聞こえる。
小説でも読んだ……2人愛し合う声。
僕はいても立ってもいられなくなった。
好きになった美帆子先生が……! 大島に盗られた!!!!
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