美帆子 第六話

1/3
前へ
/56ページ
次へ

美帆子 第六話

今、病院にいる。志津子さんは別室で広見さんといる。 私は横たわって点滴を受けている湊音くんのそばにいる。 頬にガーゼをあてられて。気を失ってテーブルに顔を打ちつけてしまった。頭でなくてよかったけど顔も……あざができてしまう。 一時的なショック状態だったみたい。さっき広見さんから湊音くんが精神科に通院していたことを聞いた。でも最近は行くときと行かないときがあって薬もまともに飲んでいなかったらしい。 そんな状態で受験勉強していたなんて。私はそのことを知りたかった。なんで言ってくれなかったのだろう。私も気づけばよかったけど。ところどころおどおどしているところもあったから。 「ごめんね、母さんはあんなんで」 「……ううん」 「父さんも別れればいいのに。でも罪滅ぼしもあるんだろうな。多分これからも母さんとは一緒にいると思う……」 私の不倫のこともあって尚更不安定にさせてしまったんだわ。わたしのせいよ。 「僕は何がなんでも親とは離れるよ……部屋は変えられちゃったけど部屋行き来したり外で会えばいいよね」 「……」 こんな状況でも私とまだ付き合ってくれるの? 私は手を握ると湊音くんは微笑んでくれた。 「美帆子さん、僕もこうして発作が出てしまう……不安だよね」 「まだ初めてで、こういうこと」 「だから僕は多分誰かと一緒にいるのは無理だと思っていたよ」 「早く話してほしかった」 「ごめん、怖くて言えなかった」 「そんなことないよ、言ってくれたら……私も調べたり病院に付き添ったりできる」 「そう簡単なことじゃないよ、父さんと母さんも苦労してる」 ……広見さんから聞いてないけどきっと、私の方に優先したのも湊音くんや奥さんのこともあってなのか、って言える立場ではない。 「また連絡するよ、しばらくは……家が落ち着くまで」 なんとなく悲しかったけど1人に戻るのは平気だった。 今後のこと……私は他にも立ち向かわなくてはいけない。 新しい高校のこと。面談はこの一週間後にあった。その間に湊音くんから電話があってお母さんも体調良くなって仕事に行ったと。不動産屋に行ったけど他の人に借り出されてしまったということ。大学の準備もしなくてはいけないからとまた二週間後に互いのスケジュールが開いたところで会うことにした。 メールも続いてるしなんとなくほっとした。 新しい高校の面談では同じ私立ではあるが男子校の名残がある現在共学だとか。 少し老朽化もあるが歴史もあり……ベテラン教師もいれば若い教師も取り入れている……。男性の方が比率が高い。 「いかがでしょう」 「は、はい……ありがとうございます」 私は学校の方針や理念のパンフレットを見入ってしまった。 「わたしたちは数回か菅原先生の授業を見させていただきまして、物腰の柔らかい方と判断しました。応用力もありますし。悪く言って申し訳ないけどあの高校よりもうちの高校であればもっとその素質を生かせると判断して引き抜かせていただきました」 引き抜き! ……異動でなく?確かになんかこの目の前にある校長はやたらと何回か見に来ていたのは知っていたけど。 「他の教師も見て判断させていただきました」 「そうなんですか……ありがとうございます」 どこで見られているかわからないわね。 「あと、槻山教育委員長からの推薦もありましてね」 ……広見さん?! なぜに? 「過去の高校時代の成績や内申点も見させていただきましてね、自立心もあり素行も良く……判断させていただきました」 広見さん……。 「こちらも教員寮もあります。槻山さんからご家庭の事情も少し聞いております。住まいも安心していただけたら」 ……もしかして……わたしはパンフレットを開いて該当ページを指差した。 「あの、教員寮は独身寮だけではないですか?」 「は、はい」 「その……こちら、家族も……入居できる……」 「え、あ、はい……もしかしてご結婚されるとか?」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加