美帆子 第六話

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ほとんど駆け落ちに近い私たちの結婚。湊音くんが広見さんから聞いた話だと志津子さんが相当怒り狂って部屋の中大変だって。 広見さんはもう気にしなくてもいいとか言って私達の結婚の証人になってくれた。他の人でもよかったのに。 互いに結婚式とかは別にいいってなって籍を入れるだけの形だ。また落ち着いたら子供も式もやればいいって。 晴れて私たちは夫婦になり、湊音くんは大学生、私は新しい高校で教師を始めた。 2人の生活、私が家事をして湊音くんは大学に通いながら週に2回は家庭教師、週末の金曜土曜夜は居酒屋。2人一緒にいられるのは朝と夜と日曜日。 湊音くんは同居してからすごく甘えるようになった。それが本当に可愛くて。 大学も楽しいと言ってるし私も新しい高校での教師生活も前とは違って若い教師たちがたくさんいて刺激的である。 互いに忙しい中だけど2人一緒にいられる時は常に一緒にいたし、セックスもたくさんした。 若くて好奇心旺盛な湊音くんに私の身体も心もとても昂揚した。 でもそれは最初だけのこと。 一年、二年……だんだん溝ができてくる。私は教師の仕事が楽しいし、湊音くんは気を使う家庭教師を辞めて気の合う仲間と居酒屋のバイトに明け暮れていた。 家事もほとんど私がしていたし、私がいくら疲れてると、訴えてもセックスを求めてきた。 そしてつい最近異変を感じた。 「湊音くん、タバコ……吸ってる?」 「ん? ……バレた?」 ニコニコ笑ってるけど匂いでわかるよ。もう20だしいいけども……。 「先輩に勧められてねー。みんな吸ってるから」 「……絶対この家では吸わないでね」 「わかってるって。それにタバコはバイト代で払ってるし」 広見さんも吸ってたし……ってだんだん広見さんに近づいている。あの人もそうだ。タバコも吸うし体ばかり求めてくるし。自己中なところが全く一緒! 「そういう問題じゃなくて……真剣に考えているの? 今後のこととか」 「今後のことって……今の教育課程やってれば四年には教育実習あるし」 「バイトばかり入れてるし、こないだ成績表も補講ばかりだったじゃん!」 「勝手に人の成績表見るなよ!」 「あなたの部屋が汚いから掃除したら落ちてたの!」 「うざ」 湊音くんはそう吐き捨てた。子供みたい。 「志津子母さんに似てあーだこーだうるさいな!」 わかったわ、母親が鬱陶しくて家から出たのよね。父親の広見さんだけでなく。 湊音くんは自室に籠ることが多くなった。でも数時間籠ったのちに私が家事している後ろからやってきて抱きついてくる。 「美帆子、ごめんね……」 とそのままセックスして仲直り。そんなの繰り返しだった。 そしてそんなこんなで……湊音くんは教育実習も終え、大学を卒業して晴れて教師になった。 私も高校で主任になった。四年目で女性としては異例の速さだと言われた。 学校では本当に楽しい、前の高校よりものびのびとできる。 「美帆子もすごいなぁ」 「なぁに、湊音くんもちゃんとした先生になれるわよ」 湊音くんは母校の高校に赴任することになった。 「そっかなぁ……それにしてもまさか大島が大阪から戻ってきてびっくりしたよ」 「そうよね。よかったじゃない」 「結婚もびっくりされてけどさー、剣道部やれとか言われたんだけど」 「いいじゃない、鍛えてもらいなさいよ」 「いやだよ。疲れるし……美帆子の高校みたいに部活動の顧問は名前だけーな制度が良かった」 「わがまま言わないの。部活動やれば手当も増えるし……」 私たちは結婚して四年目になった。2人でなんだかんだ暮らすうちに……私の中では何となく子供が欲しい、そんな気持ちが芽生えてきた。もう30目前。 湊音くんも教師としてバリバリに働いてもらって私も主任手当がついたし貯金ももっとして……。 何で子供が欲しくなったのだろう。わからないけど、周りの影響なのだろうか。 変な母性が芽生えてきたのか……。 「やっぱり無理……」 「疲れているのよ」 「ごめん、もう寝る」 「うん……」 湊音くんは四年生になってから勃起不全になった。急にだ。 三年になって補講が多くなり単位を落としたせいで教育実習までバイトを減らすほど勉強して睡眠時間も食生活も不規則であった。 私は忙しいけど仕事が楽しくて仕方がないから……平気だったのに。 あんなにもセックスしていたのに。 そして湊音くんが教師になって案の定剣道部の副顧問になり忙しさは増して私たち夫婦に完全なる溝ができてしまったのはいうまでもない。
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