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湊音 第六話
学生結婚をした。親、倫典、教授、同級生いろんな人には驚かれた。当たり前か。
でも一番自分が驚いている。
他の女性を知らないまま美帆子……父親の不倫相手と結婚したわけで。
母さんは半狂乱だったらしい。父さんは自分の不倫の顛末だと言い聞かせているようだった。
結婚したおかげで当初よりも安く部屋も借りれたし、家に帰れば美帆子がご飯を用意してくれている。そしてセックスもできる。
子供は今はいらないと言ってピルを飲み始めた美帆子。中出しの快楽を覚えてしまった。ピルを飲んだからと言って妊娠しないわけでもないと言っていたが本当に子供はできなかった。
あと結婚してよかったと思ったのは煩わしい人間関係に巻き込まれなくて済んだことか。
バイトは家庭教師と居酒屋を両方夏くらいまで並行してやっていたが家庭教師の方は中学生男子の生意気さと、その親の気遣いで疲れてしまった。
だからまだ居心地の良く何かと忙しい居酒屋の方が楽しくてそれ一本にした。
そして結婚していると言うと変に女が寄って来ないのがよかった。
どちらかと言うと体育会系で男の比率が多かったから野郎どもと下ネタで音盛り上がりした。年齢も経歴もバラバラで僕が一番下で可愛がってもらった。
こんなにたくさんの人とつるむのは苦手だったけどこう言う環境のおかげだろうか。20になって先輩に酒とタバコを教えてもらって。酒は弱いと分かったがタバコは大学の勉強の課題の多さと難しさに怠けてバイトに入りすぎたせいでいくつも落第。それを教育実習までに全て合格しないと受けられなかったから必死に勉強した。
そのストレスでタバコの半数は増えた。寝るのも食べるのも億劫になる。
セックスもだ。
美帆子も疲れた、と寝てしまうし。少し前ならその寝ているところを襲っていたがその気にもならなかった。
そしてとうとう勃たなくなった。
美帆子に対してだけでなく、AVビデオとか雑誌とか。
でもそうこうしている間に教師になり、案の定剣道部の副顧問を大島に押し付けられた。
日祝以外ほぼ朝練、放課後は稽古。初心者の僕は部員たちと共にコテンパンにされて。
ヘトヘトになりながら仕事を持ち帰って家に戻ると同じく仕事を持ち帰った美帆子が先にご飯を食べ終えて仕事をしていた。
だから僕は机の上にあるラップにかけた晩御飯を持って自室に閉じこもりそのまま部屋で寝てしまう。
勃ちもしないし美帆子と寝てもな、とおもった矢先に美帆子が僕の上にまたがっていた。僕のズボンは下ろされていた。抵抗もできないほど疲れ切っている。
「疲れてるからやめてくれよ」
「……そうよね」
率直に言われてしまったがどうでもいい。
今はこの家にいてご飯も出て何とか生活できている。
ほんとうにこれでいいのだろうか。それに美帆子がたまに友達の結婚式行ったり子供ができた友達の家に行くことが増えてきたが僕らはそろそろ……。
だから美帆子、僕の上に?
でも申し訳ないんだが勃たない。前はピル飲んでてゴムつけずに最高だとセックスしまくってたのに今はその気も起きない。前なんだっけな、誕生日だからって酒飲んでその時にちょっと勢いでできたけども。
ってなんだかんだしたら僕はもう30超えていた。もう若くないんだな。美帆子と会って15年。結婚して10年も過ぎた。彼女も30超えたけど仕事も順調そうだし出会った頃よりか綺麗になっている。
……教師という仕事は思った以上にしんどかった。父さんもこんなに大変な仕事をしながらも途中父子家庭になってもやってくれていたのか。
不倫云々はどうとあれその点は尊敬する。
大島は僕が美帆子と結婚したことはすごく複雑な気持ちだったけど大切にしてやれよとか子供作ってやれよとかいうけど……相変わらずうざいけども(自分だって結婚もせず女遊びしてるくせに)確かにそうなのかもしれない。
そろそろ子供を作る、家庭を作る……いいかもしれない。
でも美帆子とはろくに話をしていない。ただ一緒にいるのは彼女を一人にしたくない、だったら子供ができたら? 彼女も子供ができて安心するのだろう。
しかし仕事をしているし……僕だって仕事をしている。
彼女には親はいない、僕の両親に頭を下げてお願いするのか? そんなのできない……。
あーだこーだしてる僕の目の前に離婚届を美帆子は置いた。
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