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「……これなんなんだよ」
「見ればわかるよね」
「離婚したらこの家住めなくなるよ」
バン! 美帆子は机を叩いた。
「家のことだけで一緒にいるってわけ?」
「……いや、そういうわけじゃなくってさ」
「なんか一緒にいる意味ある?」
「……その、なんというか、あのさ。もうそろそろ子供作るとか……」
美帆子はすごい形相で睨む。こんな顔見たことない。
「その使えないもので出るものは出るのかしら」
ぐさっと刺さる。辛い。
「でも誕生日……お酒飲んだらそれなりに出たし、あとこれ」
それなりって……と僕の前に何か出された。棒。小窓の中に赤い線。そしてもう一枚、黒い写真?
「これ、何」
「見てわからない?」
「……」
なんか漫画で見たことがある。……まさか……。
僕は美帆子さんの手を握ろうとしたら避けられた。
「赤ちゃん……できたのか? 僕との」
「ええ、そうよ」
「ずっとピル飲んでたんじゃ」
「一年前に辞めた。ちゃんと病院でも指導受けてたけどあなたのものが役立たずだったからね」
「役立たずってなんだよ! って赤ちゃんできたら離婚したらダメじゃん、どうするんだよ」
「どうするってどうもしないわよ」
わけわかんない……訳がわかんない。
「あ、私あと教師やめるし3月末で引き払うことになってるから」
「はぁ?!」
まじで何言ってんだ、美帆子! 教師辞めるって……子供もできて仕事できないから僕が代わりに……。
「あ、ちゃんと弁護士さん挟んで養育費とか……」
「養育費よりも、慰謝料だよ!」
「……慰謝料? こっちだって毎日疲れてるのに家事にあなたのお世話に……もう相当腹立ってるんだからね!」
「くそっ!」
僕は妊娠検査薬を壁に投げつけた。鼻から鼻血が出てるのに気づいた。興奮して鼻血が出るのは昔から変わらない。
右手拳で拭き取るが止まらない。
「仕事はどうするんだよ……慰謝料は相殺として……養育費は……僕らの子供だから払うつもりはある」
「仕事はもう決まってる」
「は?!」
「住むところも決まってるし、もう全部準備はできてるわ」
……どういうことだよ、いつの間にそんなこと。
「あなたが知らないうちに時間かけてやってきたのよ。仕事も数年前から引き抜きの話があって住むところとか保育園とか手配もできてるの」
「わっけわかんねぇ」
「そりゃあなたが家を顧みず私に色々任せっきりで……」
「何で大事なことを話さなかったんだよ! それに何の恨みでこんなこと……僕が家事とか何もしなかったのは……認める。なんで……」
僕は涙と鼻水と鼻血を流して服はぐちゃぐちゃでわけわからなくなってる。
「そうね、あなたのお父さんに私の青春時代をめちゃくちゃにさせられたから」
「何を今更! 美帆子、お前だって父さん誘惑してっ! 僕の家族も壊して! 最低だな!」
美帆子はため息をついた。こっちの方が呆れてる。
一度は僕も美帆子が許せなかったけど愛してしまったがゆえに一緒にいたのだが僕だってまだ父さんと不倫していたことは嫌に思ってる。
「あなたの父親だって最低よ。嫌がる私に……」
「同意だったんだろ?」
美帆子の目がカッと開いた。
「んなわけないでしょ!」
……!
「……恋はしていた、頼ったのも事実。でも最初はほぼそんなんじゃなかった。本当、本当は……忘れたかったけど頼れるのがあなたのお父さんしかいなかったから……だから嫌な思いでも美化して……」
美帆子……。くそ、父さん。なんてやつだ!!!
「でも私はもう頼らなくても大丈夫」
「頼れよ、子供を1人で見るのは無理だ!」
「さっきも言ったけど保育園もあるし会社も理解があるところだし」
「そんな甘くない、世の中は! ごめん、もう一度考え直してくれ、本当に申し訳なかった!!」
僕は土下座した。
「……だからなに? 頭上げたら離婚届書いてハンコ押して」
そんな……。
「あなたは私の体を気遣うこと一切しなかった……自分勝手なのよ。頭を下げれば良いってもんじゃないんだから」
辛い、辛い、辛い……。
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