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可愛い可愛い息子。湊音くんにも会わせた。認知はもちろんする、とは言っていたが最初の頃はなかなか会ってはくれなかった。
ようやく半年過ぎて会いに来た湊音はくんは少し痩せていた。
実は美守が生まれる前に教職を休んでいたのだ。私との離婚のこともあるけど……やはり目の前で死んだお母様のことによる心労が未だ彼の心の中で蝕んでいるのだ。
「すまんな、遅くなって」
「ううん、大丈夫」
初めて見る父親の姿に美守は警戒したがすぐになれた。
湊音はそのことに驚き、そして喜び美守をギュッと抱き寄せた。
「父親ってこんな感じなのか」
「こんなってどんな?」
「愛おしく感じる。抱くだけで」
「母親もそうよ」
「父親は子供を産むわけではないから実感は母親よりも遅いらしい。何せ僕らも一緒に過ごしてなかったから尚更だ」
「服掴んでる」
「ほんとだ。強いな、握る力」
泣くこともなく笑い出した美守。お父さんってわかるのかな。不思議なものね。心なしか湊音くんに似ている。目元が特に。
不慣れな抱き方も自然と上手くなって行く、短時間で。これも親だからなのかな。
「写真撮っていい?」
「ええ」
「もらったやつもあるけど実際に見ると違う」
「でしょ。あ、だったら抱っこしたところ撮影してあげるわ」
「恥ずかしいよ」
「恥ずかしくないわよ」
と、湊音くんと美守のツーショットを撮影した。
「やっぱ恥ずかしいというか照れくさいというか」
とハニかむ彼。私と離れて実家に戻った彼はなんか毒素が抜けたって私がいうもんではない。
「写真、親に見せていいかな」
美守のことは湊音くんの親には会わせてもいないし写真も渡していない。彼らにとっては一人息子の子供、孫にあたるのだが。
「別にいいけど志津子さんはいいの?」
「気にしてはいるんだよ、二人とも。孫もそうだけど美帆子の体のことも気にしているよ」
前にも聞いたが、湊音が帰ってきてから志津子さんの状態は安定しているらしい。広見さんもだいぶ反省したとか言ってるけどね、私は会う気はないし美守も会わせる気はない。
出産祝いも彼らからもらってはいて湊音にお返しをしておいてとは言っておいた。
「そうなのね」
でも体力は流石に……40て前で産むのって本当に大変なことだとは思わなかった。
「てか育休中なのに仕事かよ」
机の上にティッシュや哺乳瓶以外にも教科書や書類が散乱している。
「こういうのもやらないと頭が鈍るのよ。でも育児が優先だけどね」
「そりゃそうだろ」
でも仕事も大事なのよ。
「無理だけはしないで」
「ありがとう」
湊音くんはしっかり私の目を見た。
「一人で生きるのはすごいけど強がる必要はない……美帆子も美守も僕や色んな人が守って助ける、いつでも頼ってほしい」
……ひどいことした私なのになんでそんなことが言えるのだろう。でも私は……私は一人で生きる、この子を育てて……生きるんだから。
涙が自然に溢れ出る。美守を抱いているのに泣いちゃダメだ。湊音くんが私を抱きしめてくれた。
ごめんね、本当に、こんな私に……。
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