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湊音の夢の中
僕はふと思い出した。母さん、僕を産んだお母さんだ。優しく微笑んで僕を抱きしめた。
「湊音はすごくいい子、優しい子。意地悪な子から友達を守ったって?」
「うん、意地悪する子はダメな子だよ」
「そうね。すごい。でもね、意地悪した子も色々あって理由があって意地悪をしてしまったこともあるの……確かに意地悪することは悪いけどそれだけ見ないで。ちゃんと両方の話を聞いてあげなさいね」
「……そうなんだね。わかったよ」
「今のあなたには難しいかもしれないけど両方の立場をわかる子になれるといいわ」
「よくわからないけど頑張る!」
すると母さんはテレビのビデオを流してくれた。僕が繰り返し見ているアニメのビデオだ。
「これ見てね。待ってね」
「なんで」
「いいから」
その笑顔……なんか目が赤かった。なんでだろう。体調が悪いのかなぁって。
母さんはすぐ褒めてくれた。色んなことを教えてくれた。学校の先生になるのが夢だったけど大学生の時に僕がお腹の中にいて卒業はできたけど先生にはなれなかったんだって。
来年には塾の先生になるって言ってたけど最近体調が悪い時もあってお父さんは辞めた方がいいっていうのを夜リビングで話していたけど母さんは泣きながら嫌だと言い返していた。
お母さんが勉強を他の子にも教えるんだね。僕にもとても上手に教えてくれるもん。でも……他の子に教えるのもいいけど、僕のお母さんとられちゃうの嫌だなぁ。僕だけのお母さんだもん。
って思ってたら僕の鼻から血が出てた。ポトポト。よく子供の頃から鼻血を出していたんだ。ティッシュを探す。あった、あったと取るけど二、三枚しかその時はなくて。
「お母さぁんー鼻血出たよぉ。ティッシュないよぉ」
僕は待ってなさいと言われた部屋から出た。母さんのいるリビングに向かったけど誰もいなかった。
「おかあぁさアァッん」
僕は泣きながら血を垂らしながら母さんを探す。ふと風を、冷たい風を感じた。
ベランダだ。
「母さぁん」
僕は走った。ベランダの方へ。
そこには母さんがベランダから落ちる瞬間の母さんが。
僕の方を見ている、涙を流して……僕がいるのを驚いて……。
この夢は現実かそうじゃないかいまだに分からない。
母さん、僕はもう34歳になったよ。母さんが死んで30年経つよ。色々あったけどいまだに鼻血も出すし泣き虫だし。
でも守ってるよ、母さんの言われた通り。
両方の意見をしっかり聞いている。ってもっと色んなこと教えて欲しかったなぁ。まだ小さい子供だったからこれと死に際しか覚えていないなんて。
なんでだろうな。
母さん、そういえば父さんのこと恨まず遺書にも書かず死んだってな。優しい人だよ。もっと叱ってたら父さんは懲りて美帆子にも手を出すことなんてなかったのか。
わかんないな、人のことなんて。
僕はこれから教師として人として……一人の息子の親として……頑張って生きるよ。
母さん。
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