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「ぐはぁ……」
剣道場の畳に僕は突っ伏した。やはり無駄だった。大島の相手をするだなんて。腕が痛い。
利き手を狙わずにいてくれたから授業ではペンを握れるかと思うが利き手じゃない右手はじんじんしてるし利き手の方も痛い。
「まだまだだなぁ。チビ」
湊音でなくチビ呼ばわりだ。くそ。生徒を私欲のために使う教師、教育委員の父さんに言いつければクビだってなんでもできるがそんな風に父さんを出すのもあれだし、大島は父さんのことを知っている。
父さんの前ではいい顔をする。あぁ、あと美帆子先生……教育実習生とみだらな関係を持っていることだって言えるだろう。
「でもお前は素質ある。基本を叩き込めば小回りも利くし早く攻撃ができる」
「やんねーよ、剣道なんか」
「今こうしてやったじゃんか。絶対今からやっていけば教師になった時に俺と部の顧問できるぞ」
僕はこの間の三者面談で将来高校教師になると確かに言った。一緒にいた父の手前ではない。気づけば僕は教師になるものだと思っていたから。父さんが高校教師だったから……長期休暇で近所の子供たちに勉強を教えるバイトをして教師に向いていると父さんにも言われたし、子どもたちからも先生ってガキの僕でもそう言われてうれしかったし。
今まで何もなかった夢に教師、というものが出来た。
だが剣道部の顧問をやるっていうことは想定外だ。僕の夢にはない。
「なんでお前なんかと……」
「ほれ、美帆子先生に三葉先生が見てるぞ」
えっ……僕は体を起こした。剣道場の外から二人が見ていた。ひょっこり倫典も。てめぇ……。ぺろっと舌を出す倫典に少し怒りを感じるが額から流れる汗を面を外してから拭う。朝からすごい汗だ。あぁ最悪だ。
美帆子先生は僕の方をじっと見ている。あぁ、このあと大島と……。こんなボロボロな僕よりも体格のいい大島を選ぶだろうな。
すると大島がバスタオルをかけてきた。
「まぁシャワーでも浴びて考えてこい」
「大島先生。僕は剣道はやりません」
「いつかはやりたくなる。それにお前の力、色々溜まってるだろ、また発散したくなったら来い」
たく、うざい。でも発散できたという事実は否めない。煮え切らぬ思いがどこかにいったような……。
にしても美帆子先生は強い男の方が好きなんだろうな。それにこんなガキな僕よりも……。
だからと言って強くなるとか体を鍛えるためにこの剣道部の入部することだけは嫌だ。大島みたいなうざったい男とは一緒にしたくない。僕はシャワーを頭からかけた。
「冷たっ!!」
「悪りぃー! ガス切ってたわ」
本当嫌だ。大島。美帆子先生はどうしてこんな男に……。
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