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放課後は不定期で倫典と入っている軽音楽部で演奏する。僕はギターボーカルだ。もともと倫典が入っていたのだがボーカルだけなかなか見つからなかったらしく僕も帰宅部で入る気もなかったけど倫典とカラオケに行ってから誘われる形で入った。
もともと歌うことも好きだったしギターも父さんに教えてもらってて弾けた。でもそれは人前でやるものではなかったと思ったけどカラオケ代が浮くのなら、と思って入った。他の部員とはそこまで仲がいいわけではなかったが倫典が間に入ってくれるし、彼以外とはそこまで深く付き合わずにさっぱりとした人間関係であるので苦ではない。
三年生も受験期間だからほとんど一二年のメンバーでのびのびとやっている。今は特にどこで披露するもなくただ好きな歌をやるだけで僕はそれに合わせて歌えばいいのだ。
ギターも演奏するのだがやはりこないだの剣道の名残があって少し痛い。ただでさえ演奏しながら歌うのもようやく慣れたばかりなのに。メンバーたちは素人と言え腕はいい。それに追いつくためにも頑張ったのもある。
演奏が終わると
「やっぱり湊音誘ってよかったわ。ボーカルが上手いと俺らも演奏甲斐がある、なあみんな」
と倫典を始めみんながそう言ってくれるけど照れ臭いのもある。
「槻山って歌ってる時と普段のとき違うよな」
そんなことないと思ったし普通に歌っているだけなのだが。そう見えるのか、普段はどんな風に見えているのだろう。
「この姿、女子たちが見たらモテるぞ」
「えっ……」
「槻山。彼女いないだろ。童貞だろ」
なっ……確かに童貞だが。彼女だっていたことなかったし、彼女を作ろうとも思ったこともないし。ようやく美帆子先生という気になる人はできたばかりだ。
「こういうおとなしい奴が意外とベッドの中では強烈だろうなぁ」
「眼鏡を取ると結構イケメンだな」
眼鏡を取り上げられた。ないとダメなんだ。からかわれるんだよ。こいつらには。で、倫典がやめろってと笑いながら眼鏡を取り返して僕に返してくれた。こいつがいなかったら絶対に軽音部にいない。
「まぁこれからだよ。湊音。焦ることない」
いや焦ってはいないけど、美帆子先生以外今のところ考えられないが。他のメンバーはジュースを買いに行った。二人きりの部室の中で僕はギターをチューニングしてキーボード担当の倫典は椅子に横で座っている。
僕はあまり言うのもためらったが美帆子先生と大島が剣道場の部屋で関係を持ったことを話した。小声でだ。
「えっ、まじか……もしかして今日も大島と二人きりでいて慰めているうちにそんな関係なっちゃってたり」
「だから来たのも昼過ぎてだったのかなぁ」
「ドンマイ。こういうのは多いぞ。担当の先生と実習生が付き合ってしまうって。よりによってあの大島かよ。まぁ女子生徒には人気あるけどただ若いし体つきが良いのとフランクなところくらいだろ」
「何がフランクだ。女子には優しいけど男子には結構きついだろ。あぁ……もう恋なんてしなければよかった」
「初めての恋が失恋で終わる……つらいねぇ」
「倫典はどうなんだよ。三葉先生、結構人気だしさライバル一杯だろ」
確かに美帆子先生と比べると男子には人気だった。やはりセクシーなところだろう。わかりやすい。しかも女子にも人気なのもすごい。
美帆子先生は女子に人気でやはり優しいところであろう。今日の掃除の時間も女子に囲まれていた。きっとあの授業で味方につけたのだろうか。
僕も会話に入りたかったけど無理だった。
「んー。俺のことは心配するな。昼休みに話してきたから」
そういえばそうだった。昼休みは丸々いなかったなぁ。三葉先生のところに行ったのは分かっていたけど。だからその時に剣道場に行こうとしたけど行く勇気がなかった。
「したらさぁ、すごい話聞いちゃったわけよ」
「えっ」
「三葉先生、歓迎会で大島にアプローチかけられたらしいぜ」
「うわー、まじか」
なんでだ。美帆子先生と関係を持っていたのに、本当は三葉先生狙ってたのかよ。
「三葉先生は大島がお酒かなり飲んでたし勧めてくるから強引すぎて嫌だったんだって。だから断ったら大島先生しょんぼり。研修の挨拶のときから視線感じてたらしいけど」
「完全に狙われてたんじゃん、てことは」
「三葉先生はそのあと見ていなかったようだけどもそっからあのおとなしい美帆子先生のところに行って……そういう関係になった可能性もあるな。彼女は結構昔からおとなしくて断れないような人だったみたいだよ」
まじか。しかし大島もひどい奴だ。あの体の大きな大島。お酒も入ったらなおさら襲われても逃げられられない。
びんっ!
しまった、怒りで力が入ってギターの弦が切れてしまった。
「失礼しますー」
その時、部室にだれか入ってきた。一人ではない。二人。そこには三葉先生と美帆子先生がいた。噂をしてたら来たのか。
「来た来たー。俺、三葉先生誘ったんだよ。放課後軽音部で来てって」
やめろよ。なんで誘うんだ。そして美帆子先生までも。僕は弦の切れたギターはとりあえず置いた。
「美帆子先生も来たいって。あら、湊音くんも」
三葉先生がほほ笑む。あぁ、鼻血だしてから彼女を見るのに躊躇してしまう。でも彼女の後ろに微笑む美帆子先生。やべ、ドキドキしている。倫典はニコニコ嬉しそうだし。
すると他のメンバーたちも帰ってくる。
「おー三葉先生と美帆子先生じゃんかよ」
「あら、あなたたちも軽音部? 演奏しているところ見たいわ。聞こえてきたんだけどすごくうまくて」
その三葉先生の言葉に部員たちも喜んでいる。こいつらも三葉先生好きなんだろうなぁ。倫典は余裕の顔をしているけどどういうことなんだろうか。
すると美帆子先生が前に出てきた。
「私も……演奏もだけどボーカルが一番よかったなぁって。誰かなぁ」
えっ。
ボーカル、って僕だよな……。三葉先生もうんうんと言う。
「こいつっすよ、湊音」
「えぇっ! 全然違うじゃんー予想外」
恥ずかしい。美帆子先生も驚いている。
「美帆子、目の前で見たいよね」
「うん」
まじかよ。いやだよ。面と向かって。メンバーたちはきっと三葉先生の前でかっこいい所見せたいのだろう。すぐさま配置につくが僕はギターの弦が切れたばかりだ。
「じゃあ演奏しますか。湊音、ギターは俺のギター貸すから」
「あ、うん」
僕も渋々、やるしかない。お茶を飲んでギターを持ちマイクの前に立った。
歌うことでこんなに震えることは初めてだ。
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