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「ただいま」
「お兄ちゃん、お帰り!」
僕がドアを開けると、待ち侘びていたかのように妹の日和が飛び出してきた。
「あのな、日和。僕は護芽学園に転入しなければならないんだが、お前はどうしたい?」
「え? 護芽学園に私も転入できるの! する、する! 転入!」
日和は興奮したかのように飛び跳ねた。これなら日和を“守る”ことができそうだな。
「あ! だからこんな封筒が届いたんだね」
「封筒?」
日和が机の上から封筒を持ってくると僕に手渡した。封筒の中には護芽学園の転入届やその他諸々が入っていた。
となると、冰緒は僕が承諾する前にに二人分の転入届を送っていたということになる。伊吹が言っていた、止められないというのはこの事だと実感させられた。
次の日、僕たちは護芽学園の寮に引っ越ししていた。何という手際の良さ。恐怖すら感じる。
荷物をひと通り片付けて終わり、日和と二人でのんびりとお茶を飲んでいるとチャイムが鳴った。
「ごめんください。冰緒ですけど」
その声を聞くと、日和はダッシュで玄関に行った。開けないで、日和……。
僕は渋々、玄関に向かった。そこでは、冰緒と楽しそうに日和は話していた。
「こんにちは、朔夜さん。教科書一通り運んできたので受け取ってください」
冰緒は台車に乗せて教科書を運搬していた。流石に二人分は持てないらしい。
「あの! お兄ちゃんの彼女さんですか⁉︎」
日和はウキウキと冰緒に聞いた。
「いえ、違います。届けるよう頼まれただけです。……本当は伊吹にさせるつもりだったけど」
最後にボソッと恐ろしいことを言っていたのは気のせいだとしよう。うん、ソラミミダヨ。
「あと、朔夜さんに伝言です。初日の昼休み、生徒会に来てください。同じクラスの伊吹にでも案内させれば分かると思いますので」
では、と軽くお辞儀をすると台車を押しながら帰って行ってしまった。サラッとと伊吹に面倒ごとを押し付けたような気がするが。
日和はそんな冰緒を尊敬の目で見ていた。日和は年上の女子と徹底的に馬が合わなかったから仕方ないのであろうが、冰緒を尊敬して欲しくないと言うのが兄心なのである。
教科書をそれぞれの部屋に運び終えると、すっかりお茶は冷めてしまっていた。僕が紅茶を入れ直す間、日和はニコニコしていた。
「お兄ちゃん、冰緒さんいい人だね」
「伊吹に面倒事を押し付けているようにしか見えなかったんだけどな」
僕が呆れたように返した。
「伊吹さんが誰かは知らないけどさぁ、あの人が転入を勧めたんでしょ」
日和が言った言葉の意味を理解すると、俺はピタリと動きを止めた。
「どうして、それが……」
「いや、カマをかけただけだよ? この様子は図星みたいだね」
まあ、何があったかは興味ないけどねと、日和が言うと僕は安心してほっと息をついた。これ以上は能力についても話さないといけなくなる。話したらどうなるかどうか謎の今、軽率に話すことなどできない。
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