千里眼、そして冰緒

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 次の日、僕は高等部一年、日和は中等部二年に転入することになった。  たった数日で転入まで漕ぎ着ける冰緒の能力はもはや感嘆の域に達している。  先生に連れられクラスに入ると後ろの方で伊吹が手を振っていた。僕は簡単な自己紹介をすると伊吹の後ろの空席に座った。  授業は思ったより前の学校と変わりがなく、少し安心した。  時折、伊吹は後ろを振り返った。僕のことを観察しているようにも心配しているようにも見える。 「さっさと弁当食べて。……俺が殺されるから」  冰緒といい、伊吹といい、二人とも最後にぼそっと怖いことを漏らす。  伊吹に言われた通り、僕は弁当を平らげた。何か早くしないと嫌な予感がしたからだ。 「生徒会まで案内するから一度で覚えろよ。俺はこの後、剣道部の集まりがあるから、帰りは一人で帰ってこい」  伊吹はそう言いつつ、図書室に入るとポケットから鍵束を取り出し書庫を開けた。中に入ると鍵を閉めた。   「まあ、書庫の鍵とかは後で冰緒から貰えるだろうからちゃんと一々閉じるように」  伊吹はある本棚の前で止まると、背表紙の細工が美しい本を少し手前に引いた。すると本棚の細工が外れ鍵穴が現れた。伊吹は迷うことなく鍵を差し込んだ。すると、本棚が動き、道が出来上がった。 「俺はこれで戻るけど、ちゃんと鍵貰うの忘るなよ。施錠していくからな」  そう言い、僕の背中を押した。しばらくすると、本棚は元の位置に戻り、帰り道は塞がれてしまった。僕は腹を括ると、冰緒の待つ生徒会へ足を進めた。 「待ってました。朔夜さん」  消え入りそうな程か細い声が聞こえ、僕が顔を上げた。その声の主は初めて会った時とは打って変わって心細そうな顔をした冰緒だった。 「冰緒……さん?」  僕は堂々とそして淡々とした冰緒と今の冰緒が結び付かず、思わずそう呟いてしまった。 「はい、そうです。ここでは冰緒と名乗っています」 「ここでは?」  僕が疑問思って聞き返すと冰緒はコクリと頷いた。 「順を追って説明いたします。冰緒は偽名、本名は理由があり言えませんが、貴方の能力では嘘をついても無駄なので説明しますが、伊吹には言わないでください」  偽名。あまり信用されていないことを分かっているからこそ、“秘密の共有”という方法で少しでも心証を良くしようという考えだろう。やはり彼女は計算高い。 「私は能力に関連することを一切に引き受ける政府組織のメンバーです。その中でも最少年──17歳である私はこの学園の能力による問題を生徒会として請け負っています」  つまり、生徒会とは能力に関連する問題を取り締まる組織なのであろう。それだと、こんなにバレにくい場所にあるのも頷ける。 「しかし、私が卒業後、人手不足の我々の組織は教師役となる人材を派遣することはできません。なので、学園にいる保持者の中で真っ当な者を問題を解決できるように育て、それを継承するようにするという案で纏まりました」  ちなみにこの学園は出来てから10年も経ってませんし、私がここにいるの組織にとっては痛手なのですよと、冰緒は語った。 「だから、一年下の貴方と伊吹が生徒会に入っているのです。また、今は私がいるからこそ県内の能力関係の問題も対応していますが、生徒会の仕事ではありません。ここまでは分かりましたか?」  僕は軽く頷いた。 「けど、なんで僕に教えたんだ?」  冰緒は口を手に当ててクスクスと笑った。 「能力ですよ」  冰緒の即答した。 「貴方の能力は私達の、目的を叶える為に必要なんです。だから……………」  オドオドしながらも冰緒の真っ直ぐな目をしていた。僕はそれから目を逸らしたくて机の上の時計を見ると、もう5時間目が始まろうとしていた。 「え、もう5時間目? ごめんだけど、続きはまた今度……」  冰緒は僕が慌てているを見るとふんわり笑った。 「生徒会はどんなに授業をサボっても出席扱いになります。それに、生徒会に所属していれば学力が合う範囲なら好きな大学に推薦を出してもらえますし、そもそも能力関係で休まないといけないという人が一定数いるので授業は全て動画に上がってますよ」  後でチェックしといて下さいと、冰緒は笑みを溢しながら話した。 「ちなみにですが、能力関係で休まないと行けない人も出席扱いになります。ああ、どうせなら六時間目が始まるまでお茶でも飲んでいってください」  冰緒はそう言うといそいそとお茶の準備を始めた。
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