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「冰緒って仕事のことに関すると淡々としているけど、普段はそんなにオドオドしているのか?」
冰緒が入れたお茶を飲みながら僕は疑問に思ったことを質問した。
「そう……ですね。よく言われます。仕事に関することだと頭に入っているので普通に喋れるのですけど」
冰緒とは仕事に関することを全て覚えている天才なのか。不正をした僕とは比べ物にならない。
「! そう言えば、冰緒と伊吹の能力はなんなんだ?」
「能力に関することはデリケートな問題なので伊吹本人に聞いてください。……私に関することは全て機密事項です」
前半は淡々と後半はオドオドと冰緒は答えた。仕事と普段は本当に違うらしい。
「そう言えば何のですけど、私の同僚が今度貴方を見に来るらしいので気をつけてくれるとありがたいです……」
最後はもう消えてしまいそうな程小さな声で冰緒は言った。
僕を見に来るということは“千里眼”を見に来ると十中八九同じであろう。
「能力保持者?」
「違います。組織のメンバーは基本、保持者ではありません」
私と同じで機密事項で言えなのですが、本当に気をつけてくださいと、冰緒が言うからには厄介な人なのだろう。
僕が前みたいに能力を悪用しないか確認に来るのか、はたまた想像もつかないが他の用事か……。どちらにせよ胡蝶の言う通り気をつけるに越したことはないだろう。
胡蝶は机の引き出しから鍵束を取り出すと僕に差し出した。
「伊吹君から言われたと思いますが、ちゃんと施錠して、無くさないようにして下さい」
時計を見るともう五時間目の終わりに近くなっていた。
僕は胡蝶に挨拶してもと来た道を戻って行き、教室に戻った。ちょうどチャイムが鳴った頃合いだった。
「その様子じゃ、問題なかったようだな」
後ろからこそこそと入ってきた僕に伊吹が声をかけた。
先生には冰緒があらかじめ連絡していたようだった。
「そう言えば、伊吹。授業の動画ってどうやって見るんだ?」
そう僕が言うと呆れたような顔を伊吹は見せた。
「お前、大丈夫、ああ、今日転入してきたばっかりだったな。放課後教えてやるから寮の部屋まで案内しろ。あと、俺の能力についてをな?」
伊吹は僕にしか聞こえない声で小さく付け加えた。そう言うと伊吹は僕から離れて行ってしまった。
……伊吹。僕が知っていることを纏めると、
・剣道部キャプテン
・生徒会所属
・何らかの能力の保持者である
の三つだけである。
冰緒ほどの謎では無いにしろ何かはあると思わせるような人物。
冰緒の同僚の件も含め、色々気を付ける必要がありそうだ。
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