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「モラル免許に不合格になった後の補習がヤバいらしいんだぁ。受けた人が帰ってくると、皆別人みたいになってるんだってぇ。だからヤバいことやってるんじゃないかって噂があるんだよぉ」
璃子と真理は顔を見合わせると次の瞬間噴き出した。都市伝説の類を真剣に話す愛菜がおかしかったからだ。馬鹿にされた愛菜はふくれっ面になる。
「あー! 信じてないでしょ! でもほんとなんだよぉ。C組の大木知ってるでしょ?」
大木と言えば二年C組の学級委員長だ。更には生徒会にも入っていて正義感の強い真面目人間。朝もよく挨拶運動と称して校門前に立っているので璃子の通う高校で知らない人間はいない。
「アイツも昔モラル免許受けて不合格になったんだぁ」
「ウソでしょ? あんな真面目が服着てるような奴が?」
常識人代表みたいな大木が不合格になるなんて想像もつかない。先ほどまで合格で間違いなしと思っていた自信がわずかに揺らぐ。
「今ではそうだけどぉ、小学校の頃はすっごく乱暴だったんだよぉ。気に入らないことがあると、すぐにキレて物を投げて来たり止めようとした子とケンカになっちゃって大変だったんだからぁ」
小学校は別だったから知らなかった。愛菜の言う大木をイメージしようとするがそれはすぐにぼやけて消えてしまった。
「そんな大木が小学生でモラル免許を受けに行ったからすっごく話題になったんだぁ。案の定、不合格になったんだけど補習を受けて帰ってきたら今みたいになったんだよぉ。どんなことをやったのか大木に聞いても絶対に教えてくれないの。
だから小学校の頃はヤクザみたいな教官がいるとか、怪しい薬でも飲まされたんじゃないかとかいろいろ噂になったんだぁ」
怖い顔をしていう愛菜に、思わず背筋が強張って生唾を飲み込んだ。もし万が一にでも落ちていたら、と想像してしまったのだ。
そんな私とは対照的に真理は呆れたように息を吐いた。
「それが本当だとしても、態度の悪かった小学生をちょっと脅かしたってだけじゃない? モラル免許取りに行って変なことになったなんて話も聞かないし。もし今の私らが同じようなことになっても平気だって」
「だ、だよね~」
一瞬でも怖がったことが恥ずかしく、平静を装い真理に同意すると残りのコーラを飲み干した。そんな璃子の様子を見ていた真理がにやりと笑った。
「怖がりの璃子のために、私が恐怖も吹き飛ぶスペシャルドリンクを作ってしんぜよう」
璃子のグラスをひったくるように取ると真理はドリンクバーへと向かう。
「ちょっと、激マズドリンク作る気でしょ。絶対飲まないからね!」
「いってらっしゃーい」
そんな真理を止めようと追いかける璃子を愛菜は手を振って見送った。
真理と二人、ふざけながら歩いていると、他の客やら店員にぶつかりそうになるが気にしなかった。
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