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 璃子が興奮して気づかぬ間に、父がサングラスをかけたスーツ姿の男が数人を招き入れていたらしい。 「な、なによアンタ」 「モラル免許センターの者です。上条璃子さんの補習のお迎えに参りました」  思わず後ずさった璃子とは対照的に、両親はセンター職員に深々と頭を下げていた。落ち着き払った様子から、今日来ることは知っていたようだ。 「不合格になった方は、結果通知を受け取った段階でセンターに来ていただく決まりになっております。そこで補習を受けられた方は皆、再試で免許を取得されていますので何の心配もすることはありませんよ」  その言葉に璃子は少し冷静さを取り戻した。  試験に落ちるとは思っていなかったので取り乱してしまったが、補習を受ければ免許が取得できる。退屈な時間を過ごさなければならないけれどしょうがないと諦める。  だが、母がボストンバックと職員に渡しているのを見て戸惑った。 「その鞄なに」 「璃子の着替えが入れてあるわ。戻って来るのに少なくとも一週間はかかるでしょうから」 「え! 泊まり込みになるの!?」    何時間か講義を受けるだけだと思っていたのに、何やら大事になりそうだ。荷物を職員に手渡した母は璃子の側によると手を取った。 「新しい璃子になっても、母さん今までの璃子のことも忘れないからね」 「新しいって、何のこと……」  涙をこらえた母が璃子の手を握りそう言うと、父はそっと母の肩を抱いて口を一文字に引き結んでいた。愛菜が言っていたことが頭を過ぎった璃子が震える声で訊いたが、それに答えたのは母ではなくセンター職員だった。 「そんなに怯えることはありません。センターでは補習の前に璃子さんの頭の中を少しいじらせてもらうだけですよ。思いやりのある素晴らしい人間になれるように」 「あたまを、いじる?」 「ええ、感情と思想をつかさどる神経をいじるのです。モラルのない人間というのは少し反省しても、すぐに忘れて繰り返すので根本から治療することになっています。これまでも多くの人間がこの手術を受けていますが、死んだ人はいませんのでご安心ください」  未成年の受験に保護者の同意がいるのはこのためだとか補足の説明もされるが、それは璃子の耳を素通りする。 「ただ、手術の副作用で今の人格は消えてしまいますが、モラルのない人間から生まれ変われるのですから些細なことです」 「いやっ!!」  璃子は反射的に叫び、暴れて逃げようとした。人格が消えるなんて死ぬと言っているようなものではないか。だがセンター職員は慣れているようですぐに璃子を捕獲した。別の職員が璃子の腕を押さえて懐から取り出した注射を打つ。中の液体が璃子の体に全て入ると、あっという間に意識は薄れていく。  ちゃんと皆の話を聞けばよかったと思っても後の祭りだった。 (父さん、母さん……源治、たすけて)  そして最後に思い浮かんだのは、怒った源治の顔だった。
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