2人が本棚に入れています
本棚に追加
5
璃子と源治は学校帰り、珍しく一緒にいた。
「上条、変わったよな」
そう言って源治は目を細めて璃子を見た。
老人が荷物を持って歩道橋で立ち往生していたのを璃子が手伝っているところに遭遇したのだ。源治も手伝い老人を見送った後、そのまま流れで一緒に帰っていた。
「モラル免許を取ってほんとに大人になったみたいだし」
モラル免許に落ちたらしい璃子は補習にのためしばらく休んでいたが、戻って来るとずいぶんと穏やかな性格になっていた。どういう内容を受けて来たのか口を割らない璃子に、補習はやっぱりヤバいらしいという噂がクラス中をめぐっている。
「私は何も変わってないよ」
「いや、前のお前だったら手伝いなんかせずに無視してたろ」
「そんなこと、なくはない、かもしれないけど……」
否定しようとして思い当たる節があるのか、璃子はどんどん歯切れが悪くなる。正直すぎる反応に源治は吹き出すと、足を止めて腹を抱え笑い出した。
「そんなに笑うことないじゃない」
拗ねたように言う璃子に、笑いを収めた源治は優しい目を向けて口を開く。
「悪い、ほんとに変わったんだなって思ってさ。今だから言うけど、前のお前は自分勝手で嫌いだったんだ。でも今の上条は、その、結構好きだ」
照れが入り最後はぶっきらぼうに言うと源治は視線を逸らした。だが、璃子から反応が返ってこないのでおそるおそる様子をうかがうと目を見開いた。
「なんで泣いてるんだ」
「えっ」
源治に言われるまで気づいていなかったようで、璃子は頬にやった指が濡れて驚いていた。好きだと言って泣かれるとは思わなかった源治は表情を曇らせる。
「……そんなに嫌だったのかよ」
「そんなことない! えっと、ただびっくりしただけだと思う。すごく嬉しいから!」
慌てて否定する璃子の様子に嘘はないようで、源治はほっと胸を撫でおろした。そしてすぐに気恥ずかしくなり、先に歩き出した。
だから後を追う璃子が首をひねりながら呟いた「前の私にも届いたのかな」という言葉は源治の耳には届かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!