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「あったかい……」
卵を小さな両手に収めたなっちゃんは、呟いて頬を緩ませる。
普段はツンケンしているからこそ、こういうときの我が家のお姫様は、一段と可愛らしく見える。
私は、作業の手を止めていた父母と顔を見合せ、くすりと微笑した。
◇
卵の仕分けが終わった正午、私は母と共に昼食作りに取り掛かった。
ちなみにメニューは、売り物にならない卵を使った料理がほとんどだ。
鶏たちの産卵を見逃すまいと、張り切って早起きしたからだろう。
お腹が空いたと、キッチンに張り付くなっちゃんに急かされた私は、彼女の好物の卵焼きではなく、初めて簡単なスクランブルエッグを作った。
「はい、どうぞ。ごめんね、今日は卵焼きじゃないけど――」
「何これ」
言葉を遮られる。え? とその顔を見返す私。
なっちゃんのアーモンド形の目が、不機嫌につり上がっていた。
私は彼女が何故そんな顔をしているのかわからず、戸惑いながらも朗らかに答える。
「何って、スクランブルエッグだよ。――あ、そっか。いつもと形が違うから……。――でも、なっちゃんがいつも食べてる、卵焼きと同じ卵だよ。じいじとばあばの所の鶏さんの卵、なっちゃん好きだよね?」
その言葉を、言い終わるか否かというときだった。
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