スクランブルエッグは卵じゃない

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スクランブルエッグは卵じゃない

 私の一人娘の“なっちゃん”こと夏生(なつき)は、おませな上に口(うるさ)くて――卵料理に異常な(こだわ)りを持っている。  後半については、私もつい先日初めて知ったばかりだ。  というのも、私の母が痛く心配性で万が一、アレルギーが出てしまうといけないからと、幼稚園に入ってもなかなか卵を食べさせてもらえなかったのだ。  しかし幼稚園の給食に出たときは仕方ないし、休園のときも、私は母がいないタイミングを見計らって、勿論(もちろん)しっかり火を通したゆで卵や卵焼きを食べさせるようにしていた。  幸いなことに、なっちゃんにアレルギーはなかったのだ。また、卵はタンパク質を始め栄養豊富。  コレステロールが多いので摂りすぎはよくないが、それさえ気をつければ、我が家のお姫様は何の問題もなかった。  瞬く間に卵料理を好きになっていった。――ただし、スクランブルエッグを除いて。  なっちゃんのスクランブルエッグ嫌いが発覚したのは、真夏――我が家の(にわとり)たちが立派な卵を産んだ日だ。  私の父が営む養鶏(ようけい)場は、鶏たちのストレスが溜まらないよう、自然光の中で育てることに拘っている。  ちなみに、鶏の産卵のピークは午前九時から十時くらい。  この日もその時間に差し掛かると、私ははしゃぐなっちゃんを連れて、換気扇しか回っていない、サウナのような養鶏場に足を踏み入れた。  
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