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鶏は一日一羽につき、卵一個を産めたら良いほうだ。
燦々と日が射し込む今日はまだしも、雨の日は産卵の調子が悪い鶏も少なくない。
柵に沿って列をなした鶏たちが、ぽこんぽこんと次々に卵を産み落としていく。
なっちゃんは、産まれたての卵に早く触りたいようでうずうずしているが、先に仕分けをしなくてはならない。
母が仕切りごとに置かれた籠を回収し、父の元に持っていくと、共に卵を一個ずつ確認し始める。
形が少しでも歪だったり、ヒビが入っていたりすると売り物にならないので、その分は我が家でいただいたり近所の人にお裾分けしたりするのだ。決して捨てたりはしない。
「なっちゃん、まだ触っちゃ駄目だからね」
繋いだ手を引き、姿勢を屈めて彼女に言い聞かせると、転ばないようにゆっくりと両親の元に歩み寄った。
「触らせていいの、どれかある?」
訊ねると、母は手にした一個の卵を私に差し出した。
「これはいいわよ。ちょっとヒビが入っちゃってるから」
「ん、ありがと」
両手で慎重に受け取り、隣のなっちゃんに見せる。
「ほーら、お待ちかねの卵だよー」
おずおずと差し出された小さな両手に、私は自分にも言い聞かせるように囁きながら、そっと乗せた。
「そうそう、優しくゆっくりねー……」
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